2022年の超私的デジタルアクセシビリティ関連10大ニュース
著
ポエムしか書けない身となって久しいですが(苦笑)、今年もアクセシビリティ Advent Calendar 2022に参加させていただいてまして、その24日目の記事です。タイトル通り超個人的な目線から、今年のデジタルアクセシビリティ関連のニュースを10個選び、適当に紹介してお茶を濁そうと思います。ちなみに10個のあいだに順位とかないですし、紹介順は時系列でもありません、悪しからず。
WCAG 2.2の策定、遅れまくる
いくらなんでも2022年中には勧告されるだろう。そんなふうに考えていた時期が俺にもありました(棒)。しかし本日時点では勧告案より手前の勧告候補(9月6日付の発行)という状態であり、それどころか達成基準4.1.1が削除されそうなんていう今さらジローな話まで出てきてさぁ大変。ちなみにその件を含めオープンなイシューは58個も残っています......果たしてWCAG 2.2はいつ完成するのか?要注目。
進むACTルールの策定と実装
WCAGより個人的に注目し、また期待をしているのがACTルールの策定と実装で、今月のニュースですがACT Rules for accessibility evaluation tools and methodologies | W3C NewsとかW3C Publishes WCAG Testers Consistency List | Dequeで共有がありました。これが進めば進むほど、チェックツール同士のブレが減り、どのチェックツールを使っても同じチェック結果を得やすくなるわけで。WebブラウザのほうがInteropのような形で先行している印象だけど、こうした流れが加速していけばいずれ支援技術についても同様の動きが出てくることを期待(Do we need an Interop for assistive technologies? | hidde.blog参照)。
改正障害者差別解消法を曲解した業者が登場
改正障害者差別解消法とWebアクセシビリティに関する誤謬で触れた件。まぁ驚きましたよ、間違った情報を流布してまで改正障害者差別解消法の施行を商機にしたいのか?と。この誤謬を鵜呑みにした同業者が今後さらに出てくる未来を想像するに、軽く地獄ですわ。もうね、本当にいい加減にしてほしい。シンプルに、みんなが使うWebなんだから、みんなが使えるようデザインしていこうよ。
デジタル庁がウェブアクセシビリティ導入ガイドブックを発行
ざっと眺める程度でしか把握してないですけど、基本的にとても良い内容だと思うんですよ、ウェブアクセシビリティ導入ガイドブック。上から目線ぽくなっちゃって恐縮ですが、関係者の皆さんは良いお仕事をされたと思います。公的機関のみならず、一般企業のWeb担当者にも、ぜひ読んでいただきたいですね。今後の継続的な更新と充実、の前にまずHTML版の公開を強く期待します!!
EPUB Accessibility 1.0がJIS化
電子書籍のアクセシビリティに少しばかり関わらせていただいている立場として外せないニュース。WCAG 2.0を国際標準化したISO/IEC 40500:2012に対する一致規格としてJIS X 8341-3:2016が改正されたのと同じスキームで、EPUB Accessibility 1.0を国際標準化したISO/IEC 23761:2021に対する一致規格としてJIS X 23761:2022が制定されました。しかし業界がこれを今後どう活用していくかというと、なかなか大変そう。
NASAの代替テキストが素晴らしかった件
昨年末に打ち上げられたJames Webb Space Telescope、JWSTのファーストライト(初観測)画像の公開は、宇宙業界の今年の10大ニュースに間違いなく入ると思います。そのJWSTの撮影した画像について、NASAの担当者が優れた代替テキストを付与し賞賛されたって話(Alt text proved unexpected star of NASA's Webb images - The Washington Post)は、宇宙開発とWeb開発の二兎を追う(笑)自分にとってほっこりするニュースでした。NASAグッジョブ!!それとJWST超がんばれ。
Elon Musk氏によってTwitterのアクセシビリティチームが解散
上記、NASAの代替テキストが素晴らしかった件にも微妙に関連する話題。Elon Musk氏がTwitterを買収して以来、多くの従業員が解雇されたわけですが、その一環でアクセシビリティチームが解散させられてしまったというニュース(Twitter's Layoffs Are a Blow to Accessibility | WIRED)。画像に代替テキストを付与できるようにした件を含め、非常に前向きに取り組まれていただけに残念です。私は既にMastodonに軸足を移したけど。
『HTML解体新書』が(ついに)発売
Webコンテンツをアクセシブルにするということは、ブラウザにちゃんとしたアクセシビリティツリーを作らせることが不可欠で、そのためにはちゃんとしたDOMツリーを用意しなければならず、つまりちゃんとHTMLを書かないといけない。その目的において非常に役立つ書籍、『HTML解体新書』が今年はついに発売されたんですよね......個人的には神崎先生の『ユニバーサルHTML/XHTML』の後継がようやく登場というイメージ。しかし申し訳ありません、私はまだリフロー版を読んでる最中です(おい
米国のデジタルアクセシビリティ訴訟件数は昨年から横ばい
つい最近のニュースですけど、例年米国のデジタルアクセシビリティ訴訟件数をレポートしてくれるUsableNetの調べによれば(Usablenet - Five years of ADA web and app lawsuits - key observations and trends)、2022年は4061件で2021年の4011件から比べるとほぼ横ばい。2018年から過去5年の推移は2314件→2890件→3503件→4011件→4061件。原告や州に偏りがあることを踏まえると、まだ増える余地があるように考えています。少なくとも全米でアクセシビリティが底上げされているとは考えにくいので(WebAIM: The WebAIM Million - The 2022 report on the accessibility of the top 1,000,000 home pages参照)。
続くオーバーレイベンダーの微妙な動き
個人的に不要論を唱え続けているアクセシビリティオーバーレイについての話。昨年までに引き続き、私の観測範囲においてすら、今年もベンダー周辺でいろいろ動きがありましたが......いちばん微妙だなと思ったのはAccessibility at the Edge Community Groupを巡る動き。詳しくは'Accessibility at the Edge' W3C CG Is an Overlay Smoke Screen -- Adrian Roselliを読んでいただくとして、私もTPACでの会合の議事録は読んだけど、いまだ何がゴールの活動かよくわからず。なおアクセシビリティオーバーレイに関しては、近く某所にて改めて自説を唱えさせていただく予定があります。
......とまぁ、そんな感じで、今年の10大?ニュースをまとめてみました。来る2023年も、個人的に可能な範囲でWebのアクセシビリティ向上に貢献したいなと思っていますし、時事的なネタ(ネタ?)はTechFeedのWeb Accessibilityチャンネルで共有していくつもりですので、どうぞよろしくお願いいたします。
[ 2023-01-12 追記 ] アクセシビリティオーバーレイに関しては、近く某所にて改めて自説を唱えさせていただく予定
と書いていましたが、無事にそのアクセシビリティを追い求める木達一仁さんが #Vivaldiを使うワケ | Vivaldi Browserという記事が公開されました。