Re: 騙されていますよ、弘前大学
著
東洋大学の山田先生が騙されていますよ、弘前大学 - アゴラという記事で、文字サイズ変更ボタンや前景色/背景色の切り替えをスマートフォン向けに備えたことをさも素晴らしいことのように発表(ウェブアクセシビリティ向上のための弘前大学公式ホームページ,機能整備について|弘前大学参照)したことに苦言を呈していました:
サイトにたどり着いた後で文字を大きくしたり、背景色を反転させたりする障害者はいない。「文字サイズや背景色を固定してブラウザの支援機能が妨害する」のを避けるのがアクセシビリティ配慮であって、弘前大学の対応は筋違いである。
上記のご指摘は至極ごもっともであり、それは過去にWeb担当者Forumで識者の方々が指摘してきた通りでもあります(Webアクセシビリティ対策って、何からやればいいんですか?/Webアクセシビリティのコンサルタントの植木真さんに聞いてきた、Webアクセシビリティ対応で「音声読み上げ・文字拡大・色変更」は的外れ。本当に必要なのはSEO?参照)。自分も、古くは第2回「アクセシビリティBAR」秋の文字サイズ変更ボタン祭りとか晴眼者がよかれと思って作ったUI?で言及していました。
それでもなお、弘前大学が今回のようなお知らせを堂々と掲載するに至った事実からは、Webアクセシビリティ確保の正しい理解と普及がまだまだ不足している背景を感じざるを得ません。またそうであればこそ、勤務先で長年Webアクセシビリティに携わり、またウェブアクセシビリティ基盤委員会の作業部会1(理解と普及)で活動に参加してきた一人として、無力感を覚えると同時に自身の至らなさを反省した次第です。しかし一方で、山田先生が
弘前大学はサイトを開発したIT業者に騙された。
と断定されていた点については、違和感を覚えます。というのも、当の弘前大学側の言い分がどこにも書かれておらず、記事を読む限りは事実関係が不明だからです。殊更に弘前大学のWeb担当者なり広報担当者の肩を持つつもりは無いのですが、しかし事実関係を明らかにすることなく一方的に断罪されているように読めることから、やや公正を欠いているように感じます。
もし仮に事実として弘前大学がIT業者に騙されていたというのなら、弘前大学とIT業者の双方に可能な限りの取材を行い、その結果を合わせて掲載・公表すべきではないでしょうか。でなければ、せっかくの的を射た正しいご指摘が難癖の類として誤解されたり、あるいは事実誤認に基づく誹謗中傷と受け取られかねない懸念を抱きます。
本件に関連しつつ別の論点として、国立大学法人である弘前大学は、総務省の定める「みんなの公共サイト運用ガイドライン(2016年版)」に基づきWebアクセシビリティに取り組むことを検討すべきではなかったか?と自分は思います(見た限りではJIS X 8341-3に基づく試験結果も、またウェブアクセシビリティ方針もサイト上に見当たりません)。同ガイドラインの「2.1.4. ウェブアクセシビリティ対応に関する誤解」には
利用者は、多くの場合、音声読み上げソフトや文字拡大ソフトなど、自分がホームページ等を利用するために必要な支援機能を、自身のパソコン等にインストールし必要な設定を行った上で、その支援機能を活用して様々なホームページ等にアクセスしています。つまり、ホームページ等の提供者に求められるアクセシビリティ対応とは、ホームページ等においてそのような支援機能を提供することではなく、ホームページ等の個々のページをJIS X 8341-3:2016の要件に則り作成し提供することにより、利用者がそのページを閲覧できるようにすることです。
と明記されていますから、もし仮に担当者が上記のくだりを事前に一読してさえいれば、件のお知らせをわざわざ出すことの正当性について少なからず疑念を持っていただけた可能性があります。