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宇宙開発とWebアクセシビリティ

記事を書いたりイベントに登壇する際、プロフィールを求められると、決まって「宇宙開発関連組織でウェブマスターとしての経験を積んだ後......」という書き出しで始まる文章を提出しています。子供の頃からの夢を追い求め宇宙業界を目指した自分はかつて、宇宙開発事業団(現在のJAXA)のWebサイト運用に2年半のあいだ、携わっていたのです。Web業界での経歴のほうが圧倒的に長くなってしまった今となっては、そういうイメージは傍目には消えて無くなっているでしょうけれど、大学で専攻したのは機械工学でした。

そういうわけで、Web業界にいながら宇宙開発には割と詳しいほうの人間と自負しているのですけど、読者の皆さんはアポロ8号から撮影された「地球の出」の写真を見たことがあるでしょうか。月面の向こうから地球が昇るその印象的な写真は、ちょうど50年前のクリスマス・イブに遡りますが、初めて月を周回したアポロ8号のクルーが目撃・撮影したものです。その美しくも儚く映る地球の写真は、人類にかつてない新たな視座をもたらした点で、今日に至るまで大きな影響を及ぼし続けています。

地球の出

かくして、科学的にはもちろんのこと、さまざまな面で意義深い宇宙開発。最近でこそSpaceXを筆頭に民間企業による宇宙開発が盛んですが、アポロ計画が進められていた当時は、冷戦構造を背景としたイデオロギー対立を主たる動機として、国が中心となって宇宙開発を推進していました。そして莫大な国家予算を必要としたが故に、国家主導の宇宙開発は常に(今現在もなお)批判に晒されてきたように思います。批判の代表例は、貧困や紛争といった地上で未解決の課題にこそ予算を割くべきだ、というものです。

宇宙開発を推進する側と、それに反対する側とで、議論が平行線をたどりがちなのは何故か。長いあいだ、その理由をうまく自分の中で言語化できずにいたのですけど、昨年第10回宇宙ユニットシンポジウムに参加した際、ようやく自分なりに納得できる理由を発見しました。それは、合目的性・経済合理性いずれの点においても、皆が時間軸を揃えて議論することの難しさ、です。極論すれば、推進派は人類の永続性を担保すべく超長期的な視点から宇宙開発を是としており、反対派は今日・明日というくらい短いレベルで時間軸を切り取って異を唱えている......これでは、議論が噛み合うわけもありません。

皆さんはおそらく、僕がこの記事で何を書きたいか、既にお気づきでしょう。Webアクセシビリティの是非というテーマにおいても、実は宇宙開発の是非と同じ論点が存在するということです。

Webアクセシビリティの重要性・必要性を喧伝する側の根拠の一つとして、コンテンツ公開後の環境の変化や多様化に耐え得るように......というのがありますが、そこにはまだ見ぬ未来への先行投資という側面があります。コンテンツの永続性を担保しようと思えばこそ、堅牢な実装に基づくアクセシビリティ確保は必須の要件となり得ますが、公開期間があらかじめ決まっているようなコンテンツであれば、先述の動機のみを根拠としてアクセシビリティを推進するにはやや無理があります。最終的に、推進派と反対派の「落とし所」は経済合理性に委ねられることになるでしょう。

実のところ期間限定コンテンツであっても、ひとたび公開されればそれはアクセスした世界中のWebブラウザ等にダウンロード/キャッシュされ、あるいはInternet Archiveに収集されるなどし、公開した側の期待なり予想を遙かに超えて長期間に渡り利用される可能性はあります。それを以って「永続性」などと呼称するには誇張が過ぎますが、それでもWebコンテンツは須らく永続性を意識してつくるべきだ、という立場を(アクセシビリティ確保の正当性を説くときはいつも)自分は取ります。

そのうえで、どこまでアクセシビリティを高めることができるか......それはまさに経済合理性との板挟みであり、場合によっては闘いにもなるのですけど、EdgeHTML死すとも......で書いた通り、自分も乗っかっているところの経済システムがベターではあるかもしれないけどベストではない、という確信があるので、その前提(謎)でこれからも頑張っていきたいと思います。「地球の出」の写真ほどのインパクトはもたらさないかもしれないけれど、Webのアクセシビリティを高め続けることがいずれ、人類にまた別の新たな、有意義な視座をもたらすと信じて。

......てなわけで、今年も無事に? Webアクセシビリティ Advent Calendar 2018を締めくくることができました。参加してくださった皆さま、ありがとうございました。全ての記事を興味深く拝見させていただきました。また来年、ご縁があればAdvent Calendarでお会いしましょう。良いクリスマスをお過ごしください。

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