Space Adventures社のSuborbital Spaceflightをキャンセル
著
宇宙に行けることになりました、というエントリを記してから、およそ3年半ほどの月日が流れました。そのあいだ、「いつになったら宇宙に行くんですか?」的な質問を受けるたび苦笑しながら「僕こそ知りたいですよ」などと返すのが精一杯という、微妙に辛い時期が続きました。職業的な意味での宇宙飛行士として、一種の「椅子取りゲーム」に参加している方々(失礼)は、おそらくその何千倍、何万倍とも知れぬ精神的なプレッシャーのなかを日々訓練に勤しんでいるであろうことを思えば、自分の感じた辛さなど、全く取るに足らないものだ思いますが。......で、タイトルにある通りなのですが、このたびSpace Adventures社(以下「SA社」)に申し込んでいたSuborbital Spaceflightをキャンセルしました。
SA社に対し、キャンセルの意向は今年8月5日にメールで連絡。返金は四半期に一度のタイミングでしか行われないポリシーのため、支払っていた金額のうち解約補償金を除く98,000USDを会社が受け取るのは、10月1日まで待たなければなりませんでした。実際には先方都合により若干遅れ、日本時間の10月8日になって入金を確認した次第です。このキャンセルは無論、長い時間をかけ、自分なりに検討を重ねたうえで出した結論に基づきます。ある意味では苦渋の決断と言えますが、別の意味ではこれだけまとまった金額を無事回収することが出来、安心もしています。
宇宙弾道飛行の商業化については、SA社が他に先駆けて世に打ち出した経緯があります。しかし最近ではVirgin Galactic社(以下「VG社」)が、SpaceShipOneを開発したScaled Composites社との提携を基にこの分野をリードしており、VG社の担当者曰く「他社より5年先を行っている」状況があります。5年という数字が妥当かどうかはさておき、得られている情報を読み解く限り、VG社が他社よりも先行していることは、間違いないと思っています。
一方、SA社における宇宙弾道飛行に向けた宇宙機の開発進捗は、一切が秘密のベールに包まれており、不明です。実際、申し込んでいた時分にいちどメールで問い合わせたことがありますが、開発を担当している企業との守秘義務が理由で明かすことはできない、といった回答しか得られませんでした。この点は、プレスや一部の顧客を招きイベントを催しては積極的に進捗を公開・共有してきたVG社と対照的だと思います。SA社はOrbital Spaceflight、すなわち国際宇宙ステーションまで人を送り届けるビジネスに関しては独壇場にあるため(つい先ほどもRichard Garriott氏が打ち上げられたばかり)、余計に弾道飛行をなおざりにしている印象を受けます。
SA社やそのビジネス、サービスを批判するような意図はありませんが、こうした現状認識を踏まえ、熟慮の末にキャンセルすべきとの判断に至りました。宇宙観光という産業はまだまだ黎明期にあり、それに冷や水をかけるような結論を出すのは個人的に非常に切ないものがあって、避けられるものなら避けたかった事態ではあります。しかし自分の場合、所属する会社の資金でもって申し込んでいたという事実、またそれゆえの責任といった点に難しさがあり、致し方ないことと納得しています(MVPを受賞した当時とは、立場も環境も変わりましたし)。なお、これに変わるプラン、たとえばVG社の提供するサービスに申し込むかどうかについては、今のところわかりません(完全に「宙に浮いた」状態)。