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アクセシビリティとか生成UIとかVivaldiとか(Re: Accessibility Has Failed: Try Generative UI = Individualized UX)

ヤコブ・ニールセン氏といえば、ユーザビリティやUXの分野では大家として知られており、Web業界歴の長い方ほど、その名前に馴染みがあるのではと思います。私もいち時期、氏の著書で勉強させていただきました。そんなニールセン氏が最近になって書いたAccessibility Has Failed: Try Generative UI = Individualized UXという記事は、長年デジタルアクセシビリティに携わってきた立場からすると、ちょっと看過できない内容。

もちろん、デジタルアクセシビリティがいまだ道半ばであることは認めますけど、私の狭い観測範囲においても「やっぱりな」という感じで不評を買っているし、早速突っ込まれ始めてもいます(On Nielsen's ideas about generative UI for resolving accessibilityなど)。ちなみに私がMastodonLinkedInに書き残した、脊髄反射的な感想を以下に転載しておきます:

The idea of a generative UI is interesting and full of potential, but there should be no need to discredit past efforts in the accessibility industry to promote it. In addition, there is no need to portray the relationship between accessibility and generative UI as if it were a dichotomy.

This article vividly illustrates that even the biggest names in a field can undermine areas they are not familiar with in order to strengthen their own argument.

そういうわけで件の記事、全体的には気に入らないものの、生成UIというアイデア自体は面白いし、可能性は感じています。そもそもWebブラウザの進化すべき方向性は、表示コンテンツのカスタマイズしやすさみたいな記事を、自分も書いてきたわけで。比較的最近でいえば、Vivaldi創業者のヨンさんとの対談記事、AI時代のWebブラウザから考えるWebアクセシビリティの本質のなかで以下のやり取りをしています:

木達:現状でもユーザは、コンテンツのフォントのサイズや行の高さ、カラーコントラストなどを調整できます。ブラウザ側でのさらなるカスタマイズやパーソナライズの機能拡充は、ゲームチェンジャーになると個人的には思っています。

Webのコンテンツは制作者が作ったとおりそのまま利用するのではなく、ユーザ側がブラウザで見え方を変えることができると考えています。

その観点でいえば私が考える理想的なブラウザとは、ユーザにとって使いやすいユーザスタイルシートやユーザスクリプトを自動的に作成するものだと思うのです。現状、Vivaldiは理想に最も近いブラウザです。この考えについてどう思われますか?

ヨン:VivaldiはブラウザのUIの配置やサイズを細かくカスタムできますが、同様にWebページもユーザのニーズに合わせて自由に変えられるべきですね。

Vivaldiはページの見え方を変えられるページアクション機能を搭載していますが、独自のページアクションを編集し共有できる機能はまだありません。

CSSやJavaScriptの知識のある方ならば、さまざまなルック&フィールを適用するページアクションを作成できます。将来的には、Vivaldiのテーマギャラリー同様にページアクションを共有できる場所を用意することで、誰もが自分にあった見え方でWebページを利用できるようになれば良いと思っています。

木達:ありがとうございます。もう1つのアイデアを共有させてください。

制作側の望むレイアウトなりビジュアルデザインをある程度は尊重しつつも、たとえば文字の大きさや行間、色のコントラストなどについてカスタマイズ/パーソナライズした結果をVivaldiが記憶できれば、同じサイトにアクセスしたときに常に見やすく使いやすい状態でアクセスできます。さらには、そのようなカスタマイズ/パーソナライズの「傾向」をVivaldiがAIを使って学習し、初訪問のサイトであってもユーザの特性にあわせてあらかじめ見やすく読みやすい設定を提案したりもできるのではないでしょうか。Webブラウザが進化する1つの方向性として、そうした方向はありうるでしょうか。

ヨン:AIが、ユーザの行動や操作やページ閲覧などの「データを自動的に集める」部分に関してはプライバシー上の懸念があります。

一方で、AIが「フォントサイズを最小にしたい」「⁠画面を読み上げてほしい」といったユーザの希望に合わせた設定方法を提示したり、スタイルシートを出力することはAI技術の良い使い方の1つではないかと考えています。

なので、私は生成UIというアイデアを魅力的に感じているし、Webブラウザがそれに近しい機能を実装すべきという意味では主張を同じくする者です。それだけに、これまでデジタルアクセシビリティが遂げてきた進歩であったり、その進歩を実現たらしめた先人の方々の努力、そういったものをことごとく貶めている件の記事が、かえすがえす残念でなりません。

[ 2024-03-08 追記 ] 英語圏向けに、英訳(Accessibility, Generative UI and Vivaldi (Re: Accessibility Has Failed: Try Generative UI = Individualized UX))を掲載しました。

[ 2024-03-10 追記 ] 上記の英訳を、Jakob Has Jumped the Shark -- Adrian Roselliで取り上げていただきました。ありがとうございます。

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