未来を予見する「5つの法則」
著
田坂先生の著書『未来を予見する「5つの法則」~弁証法的思考で読む「次なる変化」~』についての覚え書き。あとがきで知ったのですが、日本とアメリカ、そして英語圏で、同時出版されるもの
だったそうで。過去に読んだ田坂先生の著作で、日英同時出版というのはお目にかかったことが無く、意外に思いました。タイトルにある5つの法則とは
- 「螺旋的プロセス」による発展の法則
- 「否定の否定」による発展の法則
- 「量から質への転化」による発展の法則
- 「対立物の相互浸透」による発展の法則
- 「矛盾の止揚」による発展の法則
であり、個人的には最後の矛盾をめぐるお話が一番、興味深かったです。
この社会に存在する様々な「矛盾」を前に、その「矛盾」と正対し、それを心の中に深く把持し、「割り切る」ことなく、その「矛盾」の止揚の道を求めて、格闘し続けること。
止揚という言葉自体が辞書をひくとヘーゲル弁証法の根本概念
とあったし、ドイツ語でいう「アウフヘーベン」なのだというのは、勉強になりました。
社会全体で、どれほど、「多様な価値観」の共生が大切であると語られても、一人ひとりの個人が、その心の中に「多様な価値観」を受け容れることができなければ、社会の片隅では、いつまでも、密やかな差別や蔑視、半目や摩擦が続いていき、そして、しばしば、一つの価値観が力を得たとき、社会全体を、その一つの価値観に向かわせようとする傾向が生まれてしまう
本書が出版されたのは2008年、それから既に15年もの月日が経ち、今でこそインクルーシブだのなんだのと語られているのを目にするのは珍しくなくなりましたが、田坂先生の目に現状はどのように映っているのか興味が湧きました。上っ面では「多様な価値観」の重要性が日常的に語られても、いっぽうで世界は、単一の価値観を求めてしまってはいまいか?
科学主義と資本主義そのものに問題があるのではない。その背後にある、世界をエゴの願望のままに操りたいという「操作主義」、その願望を投影した、世界が自由に操れる機械の如きものであって欲しいという「機械論的世界観」にこそ、問題の根源がある
なるほど、科学主義はさておき資本主義には問題があると私はこれまで思い込んでいたし、ゆえに資本主義をベターではあってもベストではないみたいなことを繰り返し覚え書きしてきた気がするけど、どうも浅はかだったようです。「複雑なものには、生命が宿る」その前提において、操作主義に抗っていかなければならないのですね。