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水の葬列

吉村昭記念文学館で開催されていた企画展、吉村昭「高熱隧道」―黒部の難工事を描く―に行って以来、読みたいと思っていた『水の葬列』を少し前に読了したので覚え書き。買ってから気づいたのだけど、本書はタイトルになっている『水の葬列』のほかに複数の短編を収めた、短編集だったのね。

『水の葬列』は、私の好きな黒部川第四発電所にまつわる作品なのだけど、のっけから黒部川を「K川」、黒四ダムのことを「Kダム」「K4ダム」のようにぼやかされてるのが微妙にもどかしい。しかし物語中の描写たるや『高熱隧道』で見覚えのある、何かこう読み手に緊張感を強いる独特の文体に思え、小説とか文学に疎い自分にも一種の凄みが感じられました。例えば

骨は乾いた音を立てて折れた。その反動で土の中から足先が突き出た。土の上に出ている白い茸ようなものを眼にした時、私は、そこに生々しい妻を見出したのだ。

......という感じ。架空の話の割に、妙におどろおどろしくて、まるでホラー映画を見ているかのよう。終わり方にしたって、よくわからないまま得体の知れない恐怖、畏怖の感覚に置き去りにされるかのようで、それが恐ろしい。結局、物語で描かれた部落とは何だったのか? 部落の人々はどのような文化、価値観を持っていたのか? 謎は明かされぬまま、神秘的なうちに物語は終わってしまう。

話のわかりやすさで言ったら間違いなく『高熱隧道』が好みだけれど、しかし『水の葬列』にはまた別の不思議な魅力を感じます。不貞を働いた妻を殴殺してしまった過去を持つ、特異な主人公の目を通して描かれる、謎の(異常な?)部落の世界観。それは、読んでいて強烈に緊張させられるものの、虚構とわかっているからこそ安心もできるし、緊張感を楽しめさえする......そんな小説でした。

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