宇宙開発をみんなで議論しよう
著
昔の職場でお世話になった寺薗さんも執筆者の一人である『宇宙開発をみんなで議論しよう』、いつまで経ってもKindle化されないので、仕方なく紙版を買って読了。大学院での私の研究テーマ「社会課題解決手段としての側面に焦点を当てた宇宙開発広報の可能性に関する考察」に深く関わる内容だったし、以前対論型サイエンスカフェ「月旅行、 どうなったら行く?」に参加したこともあって、非常に楽しめました。
宇宙開発はしばしば科学技術の「夢」を体現する事業と見なされてきましたが,その一方で,それが社会にとってどんな影響(メリットとデメリット)をもたらしうるかは,必ずしも明らかではないのです.
上記は「はじめに」からの引用ですが、のっけからこれ(笑)......実にパンチがあります。宇宙開発ファンとかマニアは、割とこう宇宙開発の推進が圧倒的に善であり、絶対的に正しいことと捉えがちだと思うのですが(何を隠そう私にもその傾向は否定し難い)、やっぱり思考停止してはいけないんだよなあ。
JAXAはイベントやSNSでの発信など,広報戦略に注力してきた組織です.タウンミーティングもまた,「意見交換会」という,広報の一環として推進されてきた側面が強いものでした.
JAXAのタウンミーティング、すごく昔に参加した記憶があります。意見交換といいつつ、実際には双方向というより一方通行のコミュニケーションだった印象があって。そもそも合意形成ないしそれに近しいことが開催の目的ではなかったにせよ、JAXAも参加者側もなんとなく悪い意味で「言いっぱなし」だったような? ちなみに2005年の記事「JAXAの広報・教育活動について」を読み返すと、だいぶキツく書いてますね我ながら笑。
全体として,宇宙開発と社会との関係を考える上で,大きな問題となるのは,宇宙開発に対してしばしば抱かれるロマンティックなイメージと,軍事的・商業的色彩を濃くしている宇宙開発の現実の間で,ギャップが生じている,という点です.
そうそう、まさにそのギャップを広報活動を通じてどう最小化するかに私は興味があって、社会課題解決という切り口が役に立つのではないかとうっすら感じているのですけど、どうでしょうね。同時に、いかにして既存の「ロマンティックなイメージ」を否定したり相殺することなく宇宙開発を推進できるかっていう観点も、大事ではないかしら。
「ビッグサイエンス」という言葉を作ったワインバーグは,有人宇宙探査はコストの割に社会にもたらす利益が不明確だとして批判しています(Weinberg 1961).
研究の一環で、生活者を対象としたアンケート調査(N=307)を実施しており、その中で有人宇宙開発が社会課題解決に役立つか? みたいなことを聞いてもいますが(その調査結果はここではあえて触れませんがいずれ公開の予定)、ワインバーグ氏の文献はちょっと読んでみたいな......今更だけど。Amazonで検索したところ、日本語で読めるものでは宇宙論とか物理学に関するものが多い印象。
タイムスケールをどこまで広げたほうがいいのかという話題も出ました.10年なのか,20年なのか,あるいは100年なのかというようなところで,その宇宙資源の問題をどの時間軸で考えるかというのが問題の根底にあるんじゃないかという話も出てきました.
そうそう、まささにその時間軸の不一致というのは、宇宙開発の賛否などを複数人で論ずる際に解消しておくべきポイントだと思っています。合わせて空間認識についても、ちゃんと前提を揃えておくべきだろうなと思っていて、先述の私の研究における生活者対象アンケート調査では、その辺りの認識についても問いを立てています(「環境」や「社会」にどこまでの宇宙空間を含めるのか? とか)。
JAXAの広報アウトリーチに関する分析が百合田他(2016)でなされています.
これは国民の意識調査の分析による広報アウトリーチ対象の分類と方法の設計のことですね。私の研究は民間企業の広報についてのものだから、「百合田他(2016)」を先行研究とは見なさなかったのだけれど、改めて目をとおしておきたい。最後に、p.65にあった
考えてみよう(1回目):宇宙資源の開発をどのように実施すべきかと思いますか?
というくだり、どのように実施すべきと思いますか? の誤記かなと思いました(「か」の1文字が余計に挟まっている)。