Re: 【オンラインセミナー】情報アクセシビリティを巡る政府の動向 を開催しました
著
新経済連盟が情報アクセシビリティに関するセミナーを開催したそうで、そのレポート記事「【オンラインセミナー】情報アクセシビリティを巡る政府の動向 を開催しました」において、講演資料「情報アクセシビリティを巡る政府の動向(PDF形式)」が公開されていました。
資料において、講師を務めた東洋大学名誉教授の山田氏は、総務省のサイトなどに見られる「サイト内閲覧支援ツール」をアクセシビリティ・ウォッシュなる表現で断罪されているようです。しかし、山田氏が好事例として紹介している「サイト横断閲覧支援ツール」も五十歩百歩、似たようなものだと私は思います。
サイト内閲覧支援ツールにしろ、サイト横断閲覧支援ツールにしろ、Webアクセシビリティを本質的に改善するものではない認識です(アクセシビリティオーバーレイと同類)。加えて奇妙に思えるのは、かつて山田氏ご自身が座長として取りまとめた「みんなの公共サイト運用ガイドライン(2016年版)」を同じ講演資料で紹介しているのですけど、そこには
ホームページ等において、音声読み上げ、文字拡大、文字色変更等の支援機能を提供する事例がありますが、これだけでは、ウェブアクセシビリティに対応しているとは言えません。
と明記されています。にもかかわらず、FACIL'itiという具体的なベンダー名称を挙げてサイト横断閲覧支援ツールを持ち上げる理由は、何なのでしょう? 好意的に解釈するなら、公共サイトの残念な現状に痺れを切らし、いっそどのサイトもFACIL'itiを導入すれば今よりまともな情報環境にできると主張されたいのかもしれませんが......私には、山田氏がブーメランを投げているように映り、非常に残念です。
ちなみに山田氏は、今現在はどうか知りませんけど(軽く調べた限りは確認できなかった)、2019年にファシリティジャポン(株)顧問に就任しています:
ファシリティジャポン株式会社は、日本国内でのデジタル/ウェブ アクセシビリティのソリューション提供事業をより強化、充実させるため、この度、東洋大学名誉教授・情報通信政策フォーラム理事長 山田肇氏が顧問に就任したことをお知らせします。
講演資料中には上記の事実に関する言及は一切なく、敢えて穿った見方をすれば講演自体が一種のステルスマーケティングに思えます(少なくとも、そういう誤解を与える懸念を私は覚えます)。講演資料の最後のページにある「講演のまとめ」の末尾でも
サイト横断閲覧支援ツールFACIL'itiを開発したフランス企業のように、 ビジネスチャンスを掴むよう早急に動いていただきたい
のようにわざわざFACIL'itiの名前を出し、その導入を勧めないまでも、印象付けようとしているわけですから。この点に関し、何らかの資料の文面にはない補足が当日なされていたのか確認しようと、新経済連盟事務局にメールで問い合わせたところ「今回の講演は、当連盟の一般会員企業に限定して公開したものですので、誠に恐縮ですが、講演内容についての質問には回答致しかねます。」とのことでした(返信内容は公表する旨、問い合わせ時点で伝えていました)。
念の為、誤解のないよう書いておきますが、私には山田氏を誹謗中傷する意図はありません。むしろ、氏のこれまでの情報アクセシビリティ向上に向けた取り組みには、一定の敬意を抱いています。それだけに、今回公開された講演資料を眺めたところ、大変残念に思うところがありましたので、問題提起する意図をもって本記事を書きました。
[ 2022-03-16 追記 ] FACIL'itiにまつわる疑義に関して、Adrian Roselli氏が#FACILiti Will Get You Sued -- Adrian Roselliにまとめていました。