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Re: アクセシビリティー対応とかいう害しかないクソ

アクセシビリティー対応とかいう害しかないクソを読んだ感想は、既に昨日のうちにTwittterで脊髄反射的に吐き出してしまったけれど、読み返そうと再びアクセスしたら単にちゃんと理解できてないだけじゃんとかクソなアクセシビリティコンサルの意見を鵜呑みにするなとか半端な対応されると余計聞き取りにくかったりするだの、ハック的な音声読み上げソフト対応こそがクソといった反応が寄せられており、いずれも興味深く読みました。

自分が件の記事の読後に感じた最大の懸念は、記事の著者(いわゆる「増田」)の勤務先が、アクセシビリティを視覚障害者のためだけに必要などと誤解しているのではないか? ということです。実際には、記事に書かれている以外の対応にも取り組んでいらっしゃるのかもしれませんが......しかし、音声読み上げ環境での読み上げに対する異常なまでのこだわりから察せられるのは、アクセシビリティ対応=音声読み上げ対応=視覚障害者対応、という誤った認識です。

確かに、視覚障害者の使うスクリーンリーダーのようなソフトウェアが、コンテンツ制作者の意図した通り正しく読み上げるに越したことはありません。ですが、それに過度にこだわるあまり視覚に障害を持たない、スクリーンリーダーを使わないユーザーにとっての可読性や理解、利便性を妨げては本末転倒と考えます。その点については、2007年に書いた記事ですけどRe: 第18回 XHTMLの設計〜状況に合った要素選び(3)〜特定の利用者や環境に対し歩み寄れば、それ以外では当然逆のことが起こりうる(場合によっては不便を強いることになる)と書いた通り。アクセシビリティは、障害の種別や有無にかかわらず、すべてのユーザーにとって必要な品質との前提に立った対応なりバランスが必要と考えます。

また、同音異義語を含む文章がまさにそうですけど、正しい理解が得られるかどうかは、文脈に依存することが少なくないと思います。逆に言うと、たとえスクリーンリーダーが一部を正しく(ないし分かりやすく)読み上げなかったとしても、前後の文脈から正しい理解が得られることもある、ということです。実際、視覚障害者の方から、「1/10」という表記が分数の「10分の1」をあらわすのか、日付の「1月10日」を意味するかは(読み上げがどうであれ)類推できると聞いたことがあります。そして、その種の類推に基づく理解は、スクリーンリーダーを使っていようといまいと、割と日常的に行われていることではないでしょうか。

そもそもサイト内のあらゆるコンテンツに対し、あらゆる音声読み上げ環境(OS、Webブラウザ、そしてスクリーンリーダーの組み合わせ)で正しい読み上げを実現するのは不可能、控え目に言っても現実的ではない、実装や検証にかかるコストを想像するに経済合理的ではないと思います。その辺りは、電子書籍において誤読ゼロを目指すことの是非にまつわる論点に共通していると強く感じます(『電子書籍アクセシビリティの研究』公刊記念シンポジウム参照)。昨年、『Web技術の闇鍋本』に寄稿した「アクセシビリティ四方山話」において、「誤読ゼロの実現可能性と電子書籍のアクセシビリティ」のセクションで私は以下のように書きました。

仮にスクリーンリーダーをAI技術なり機械学習を使いうんと賢くさせたところで、おそらく誤読ゼロの達成というのは難しいでしょう。もちろんスクリーンリーダーの進化は必要ですけど、「言葉は生き物」と言われるように、新しい読み方というのはきっと発明され続けるでしょうから、スクリーンリーダーとの「いたちごっこ」は続くように思うのです。

従い、誤読ゼロは諦めたうえでなおどこまで誤読を減らせるか、というアプローチがコンテンツの制作側とスクリーンリーダーの双方に必要ではないでしょうか。そしてその過程において、アクセシビリティ実現のためのコスト負担が、短期的にはコンテンツ制作側に偏るとしても、中長期的には支援技術、すなわちスクリーンリーダー側に寄せるようにしなければ、コンテンツの拡充は望めません。

そこで改めて強調したいのは、アクセシビリティというのは何も、コンテンツを制作する側だけが頑張れば良いというものではない、ということです。コンテンツそのものが可能な限りアクセシブルであるべきというのはもちろんですが、コンテンツを処理する側、たとえばWebブラウザやスクリーンリーダーももっと進化すべきですし、コンテンツを利用するユーザーもまた、相応の学習コストを払うなどして進化すべき、いやして欲しいと願っています。みんなのためのアクセシビリティなのだから、コンテンツ制作者だけでなしに、それに関わるみんなで改善していく。そうありたいものです。

アクセシビリティおじさんからは、以上です。

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