下ノ廊下における転倒事故の振り返り
著
黒部峡谷・下ノ廊下ツアー 2019で書いた通り、平べったい岩の濡れた表面に足を滑らせ転倒
した結果、左手の付け根近くを骨折してしまいました。前夜の雨で濡れた路面には十分注意して歩いていたつもりにも関わらず、です。今シーズンだけで既に5人もの登山者が命を落としている下ノ廊下、その難易度や危険性を改めて認識させられたわけですが、転倒の理由というのは阿曽原温泉小屋の佐々木さんが以前講演会で発言されていた
事故の99%は自分のミス、自分のミスなのです。滑った転んだというのは、疲れてきて「あの石に足を置いたら危なそうやな、でもいいや」と置くからこうなる。まったくの不可抗力というのは本当に少ないです。これは私の経験則です。
に尽きるなと思います。過去に5度歩き通していたことに由来する慢心、そして天候が悪化するお昼までに何としても小屋まで届こうという焦りもあったとは思いますが......と同時に、今回は腕の怪我だけで済んだのが本当に不幸中の幸いでした。転倒した場所が崖っぷちで滑落したなら死んでいたでしょうし、そうでなくとも足を怪我するなどして行動不能に陥っていれば、携帯の電波が届かぬ深い谷底だけに、1日近く発見されないままに陥っていたはずです。というのもこの日は天候不順で、ダムから阿曽原に向かう人を自分以外に誰も見かけず、すれ違いは阿曽原方面からのソロ男性と一度だけ、という状況だったからです。
事故の再発を防ぎ、来年以降より安全に下ノ廊下を歩くにはどうすれば良いか、少し考えてみました。
- 時間で区切ってちゃんと休憩を取る。緊張を強いられるルートだけに、無意識のうちに疲労を溜め、集中力を下げてしまうリスクがある。なので、1時間ごとを目安にしっかりザックを下ろし休憩を入れる。
- 転倒後に可能であれば、写真を撮影する。転倒した場所や状況を警察や病院に伝えるうえで良い材料になるし、転倒した時刻もかなり正確に記録できる。
- ウォーターボトルの口は、あえてきつく閉めないでおく。今回、左手を負傷した後ではフタを開ける行為が困難となってしまい、以後の給水が不可能という危険な状態になった。弱い力でもフタは開けられるようにしておかないと、まずい。
- 骨折した恐れがある場合、もしかするとトレッキングポールを添え木がわりにして患部の固定ができたかもしれない。それができるよう、何かしらテープ(テーピングテープ?)の類を持ち歩くようにしたい。
- 安物で良いので、ツェルトを買って携帯するようにする。行動不能となり野宿しなければならない状況に陥ったら、ツェルトがあると無いとでは生存可能性が大違いのはず。ちなみに救急キット程度は常に持ち歩いている。
- 登山計画書を億劫せずに作成・提出する。それが事故の防止だとか有事の際の早期発見につながるかというと微妙なところだけれど、今回は直前に日程を変更したこともあって出しておらず、結果的に黒部警察署でお説教をされてしまったので。
- 何かしら山岳保険に入る。以前から検討はしており、今年は会員制捜索ヘリサービスのCOCOHELIに加入したけれど、やはり万が一のことを考えると不十分。この点は警察署の方から確認を受けたポイントの一つでもある。
- 阿曽原温泉小屋で電波が入るキャリアに乗り換えを検討する。ソフトバンクでは、阿曽原温泉小屋で圏外となってしまい、家族に無事を伝えることができない。せめて黒部ダムから無事に小屋まで着いたことは、到着後に一報を入れるようにしたい。