これからはじめるwebアクセシビリティ
著
購入したのははるか昔、昨年まで遡ると思うのですけど、ちゃんと覚え書きしていなかったので、今更ながら@yamanokuさんがお書きになった『これからはじめるWebアクセシビリティ』について。「これからはじめるWebアクセシビリティ」へのFB専用リポジトリにイシューを立てるほどでもないかと思いつつ、気になったところを列挙しておきます:
- p.5で
アクセシビリティとユーザビリティというものは別次元のものです
とありますが、これはp.6にあるいわばアクセシビリティの中にユーザビリティが含まれるもの
やアクセシビリティを向上させることで、ユーザビリティも自然と向上できる場合があります
といった説明とやや矛盾して聞こえます。別次元、と表現された意図を噛み砕いていただかないことには、読み手に混乱を招きそうです。 - p.5でJIS Z 8521に言及されていますが、JIS Z 8521はISO 9241-11を日本語に訳したものと自分は認識しているので、ユーザビリティの原義を紹介するのであれば「どちらかというと」JIS Z 8521よりISO 9241-11を引き合いに出すほうが相応しいように感じました。
- p.6の「2.3 インクルーシブとの違い」において、
これは「アクセシビリティ」を拡張したものと考えても良い
と記されていますが、自分は異なる理解をしています。インクルーシブデザインはデザイン手法の一つであり、アクセシビリティはその結果として得られる品質という理解です。この辺りは文脈次第という気もしますけど、最近読んだ中で一番しっくりきた説明は(2) How we do our work matters: Accessibility and Inclusive Design | LinkedInです。 - p.8の
アクセシビリティとはあくまでも「手段」です
という表現が、正直よくわかりませんでした。直後に規格に対応するために
云々というくだりが続くので、なんとなくJIS X 8341-3の活用は手段であって目的はあくまでアクセシビリティ の向上ですよ......という意図なのかなとも思ったのですが、直前で文字サイズ変更ボタンの必要性に疑義を唱えており、複数の論点が混ざってしまっている印象を受けます。 p.10ではWCAGに言及しつつhttps://waic.jp/TR/WCAG21/というURLを記載・リンクされていますが、アクセスできません。またそのURLから察するに、WCAGは最新バージョンの2.1を紹介されたかったように思うのですが、その前提で考えると、p.11で紹介されている適合レベル別の達成基準の数が間違っています(バージョン2.0の数を紹介されています)。( [ 2019-10-02 追記 ] 本項で指摘したURLの誤記は2018-10-30版で修正対応されているのを確認しました)- WCAGについて、p.11で
2016年にJIS規格に
とありますが、微妙に誤解を招く可能性のある表現と思いました。JIS X 8341-3:2016が一致規格とした直接の対象はISO/IEC 40500:2012であって、WCAGではないからです。ただ、そのISO/IEC 40500:2012の中身がWCAG 2.0なので、結果的にJIS X 8341-3:2016とWCAG 2.0は技術的に同じ、という表現を自分はしています。ややこしいですね。 - p.12で
それに伴い「JIS X 8341-3:2010 に一部準拠」と表記することが許されます
とありますが、2010年版JISの使用は推奨されない認識であり、2016年版に言及すべきです。また、WAICの対応度表記ガイドラインに基づく必要が生じるのは、あくまでJIS X 8341-3に基づいてアクセシビリティ向上に取り組む場合であって、そうでない限り「一部準拠」のような表記の是非は問われません。直前、p.11までは純粋にWCAGのお話をされていますので、JISに基づく場合とそうでない場合のお話が混ざってしまっているように思います。 - p.21から始まる第6章、「role、ARIA 属性のつかいかた」は、まるまる削除してしまっても良いように思いました。本書のタイトルには「これからはじめる」とあるぐらいですから、そういう層に向けWAI-ARIAとは何ぞやを語るのは時期尚早に感じたためです。もし仮にWAI-ARIAに言及するとしても、自分だったら、ドキュメント志向に加えアプリケーション志向のコンテンツがWeb上に増える過程において、HTML仕様にある語彙だけではニーズを賄いきれなくなった経緯とともに、「おまけとして」第5章「HTML を見直してみる」末尾で触れるにとどめると思います。
- p.22の「6.2 実例として実際のパーツでの使用例」で、WAI-ARIA Breadcrumbのマークアップ例で
aria-label="パンくず"
というマークアップをされていますが、果たして「パンくず」というラベルで、それが何であるかユーザーに伝わるのかは自分は疑問に思っています。まぁこれはWAI-ARIA Authoring Practicesにあるマークアップ例自体に疑義がある、ということなのですが(WAI-ARIA Authoring Practices 1.1のBreadcrumb Exampleについて思うこと参照)。もしWAI-ARIA Authoring Practicesに基づくなら、本書ではul要素を使っていますけど、ol要素に変えたほうが良さそうです。 - p.29にある
HTML はあくまでも「文書ファイル」であることを理解しましょう
というくだりは、ちょっと引っかかりを覚えます。先述の通り、HTMLは静的なドキュメント志向のコンテンツのみならず、動的なアプリケーション志向のコンテンツをつくるのにも用いられている現状がありますから、誤っているとまでは思わないものの、表現としてやや苦しいなと感じます。