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Appleを相手どったWebアクセシビリティ訴訟の顛末

昨年8月にThe RegisterでApple web design violates law, claims blind personという記事を読んだときには、なかなか興味深い事案だなと思ったものです。というのも、Appleといえば自社の製品やサービスのアクセシビリティ確保には積極的な企業として、広く知られているからです。そんなAppleですらWebアクセシビリティの不足について訴えられてしまうほど、アメリカでは訴訟を起こす動きが盛んらしい......なんてことを、昨年のセミナーで話したことがあります。

その後、その件についてはしばらく続報が入ってきていなかったのですが(結果が明るみになるまでは一定の時間を要するのが常)、今月になってUsablenet - Apple ADA Web Ruling Sets new standard for claimsを読み、件の訴えが却下されていたことを知りました(つい先日のセミナーでは、急遽その顛末を盛り込んでお話しました)。この結果がまた、実に興味深い感じです。記事によると、却下の理由をうんと略すなら、訴えの内容に具体性が乏しいということになるでしょうか:

In her ten-page decision to dismiss the case, Judget Preska explained, "Plaintiff does not give a date that she tried to access the physical store or what good or service she was prevented from purchasing. She does not identify sections of the website she tried to access but could not. Finally, while general barriers are listed, she does not allege which one of them prevented her from accessing the store."

確かに、改めてUNITED STATES DISTRICT COURT - mendez_v_apple.pdfを眺めると、上記の指摘がごもっともな印象はあります。NATURE OF ACTIONの章にある内容は、Webアクセシビリティの基本の「キ」と言っても良いようなものですが、それを受けて書かれているSTATEMENT OF FACTSの内容は具体性に乏しく、より具体的にどのURLでどの(項番28のa〜dのいずれの)問題に直面し、結果どう困ったのかというのが詳述されていません。極論、Appleのサイトを使わなくたってこの程度の内容なら作文できそうです(完全な言いがかりとして)。

今後、この手の訴訟を起こすなら、直面した困難をより精緻に書き下す必要が高まるかもしれない、とはUsablenetも予想していますが(the Apple case may require more specificity from plaintiffs for cases filed in New York)、個人的にはそうであって欲しいです。件の訴訟はさておき、言いがかりレベルの訴訟を起こしたところで、良い方向に話の進む保証など無いでしょうから。この手のお話、そもそも訴訟を起こすより前に当事者間でどういうコミュニケーションがあったか(そもそも対話など無かったのか?)というのが、いつも気になるのですけど。

一昨年から昨年にかけて、Usablenetの調べによればADAに基づくWebアクセシビリティ関連の訴訟件数は実に2.8倍に急増(2018 ADA Web Accessibility Lawsuit Recap Report参照)、今年に入ってからも昨年同期比でもなお増加傾向が続いているだけに(ADA-Based Web Accessibility Claims Continue Record-Breaking Rise in 2019には31%増とある)、果たして今回の却下が訴訟件数の急増に歯止めをかけることになるのかどうか? 注目したいです。

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