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電子書籍アクセシビリティの研究

今年1月開催の公刊記念シンポジウムには出向いていたものの、肝心の書籍については読んでいなかった『電子書籍アクセシビリティの研究』について。ようやく?Kindle版を購入し、読んでみました。誤読回避のための用字変更や読み補足が、やや目障りに感じられてしまったけれど、読み終わる頃にはそれなりに慣れてしまったので、慣れとはおそろしい。

書籍を正確に音読したいとの思いにどのように対応できるのか、が本書の研究目的の一つであった。同時に本書自体が、正確な音読を実現できるか、が一つの社会的な実験であると考えていた。本書によって、原稿執筆段階での工夫や、原稿完成後の実際に音声読み上げを行なった上での修正作業などによって、大きな追加費用なしに、ほぼ誤読のない電子書籍音声読み上げが可能となることが実証されたことになる。

......というのは、確かにそうなのだろうと思う一方で、用字変更や読み補足という、RSが正しく読み上げる前提においては必要ないであろう改変を加えてまで誤読ゼロを担保するというのは、それが既存の書籍に適用できない以上にRS側の今後の進化によって不要(ないし「限りなく不要」)になるであろうことを考えると、悪手(控えめに言って「必要悪」?)に映ってしまいます。6.2.1「共同自炊型電子図書実証実験」においては、OCRを用いたテキスト化の試みに関し

アンケート調査結果からは、誤認識があっても参加者の満足度は高いという結果が出ている。

とあるし、8.3「アクセシブルな電子書籍とSSML」では

SSMLを用いなくても、日本語の辞書機能や構造解析機能の向上によって、誤読の発生率が相当低く抑えられる「文学・評論ジャンル」、「経済学・経済事情ジャンル」にSSMLの利用のニーズは高くないと考えられる。

一方、誤読が今後も高く生じると思われる「数学ジャンル」、「語学・辞典・事典・年鑑ジャンル」は、SSMLの対応が求められることになるだろう。また、教科書、公文書、入試などの各種試験問題などは、SSML対応による誤読ゼロが求められることになろう。

とあります。SSMLを使うかどうかはさておき、どの分野の、どういう種類の書籍では誤読ゼロないしそれに近しい読み上げ品質を目指すか(あるいは目指さないか)といったあたり、早急に業界のコンセンサスを作るなり何かしらのガイドラインに落とし込む必要があるのではないでしょうか。

それはそれとして全体的な感想としては、複数の著者が分担して書いている以上、異なる章で似たような印象の記述があるように感じられたのは仕方ないかなと思いつつ、電子書籍の現状を俯瞰するうえでの良書と感じました。中でも石川先生がお書きになった2章「視覚障害者等の読書と電子書籍」、それと山田先生が書かれた7章「ウェブアクセシビリティと電子書籍」が、個人的に参考になりました。他、かなりあちこちマーカーを引いたけれど、特に気になったところ:

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