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恐るべき旅路

松浦晋也さんの著作「恐るべき旅路 —火星探査機「のぞみ」のたどった12年—」を読了。正確には、今日ではなく前日ASTRO-EII/M-V-6の打上げを見にJAXAiに出向いて時間を潰しているあいだに読み終えたんですけど。結構内容的に濃くて読み応えのある本でしたから、ちょっと時間がかかりました。この本は、火星探査機「のぞみ」の物語であると同時に、宇宙科学研究本部という組織の物語だなぁというのが第一の感想。探査機と同じくらいそれに携わる人々にスポットを当てて物語が進んでいくし、また探査機の構想から開発、運用に至るまでの一連のプロセスが見事に描かれているので。もっとも、後半に進むにつれて世相への言及が多くなってしまっているのが個人的には残念。「のぞみ」がどういう状態のときに世の中でどんな出来事があったかなんて、本文中で逐一記されてもなぁって感じです。巻末に年表形式でまとめていただけたら、良かったかもしれません。
松浦さんは、取材をする立場でいらっしゃる事実を抜きにしても、一時期「のぞみ」に関して敷かれた緘口令には結構こだわりをお持ちのように感じました。確かに僕もそれが是か非かと問われれば非だろうとは思うのですけど。都合の悪い情報ほど、本来積極的に表に出さなければならないはずですし、後になって意図的に隠していたなどと受け取られては、かえって風評被害を大きくしてしまうだけですからね。無論何でもかんでも公開する必要なんて無くて、その「さじ加減」には政治的な側面も絡むがゆえに難しいとは思いますが。結局のところ、どんなにネガティブな内容の情報であっても、受け取るのは同じ人間なんであって、伝え方ひとつでどうにでもなるというか、理解してもらおうという努力が真摯に伝われば、決してそう悪い(酷い)結果は生じないハズっていうか。見方を変えれば、それは広報の面白みであり、また醍醐味ではないかと思います。
本書でもっとも印象的だったのは、第7章の「最後の勇者」という節。火星周回軌道投入の断念が世に伝えられた後でも、内部では実は更なる検討が行われていた、という事実が紹介されています。良い意味で「往生際の悪い」人々が懸命に努力し続けていたというのは、実は本書で初めて知りました。そういう往生際の悪さというのは、もっと広報しても良いかもしれませんね。「最後の勇者」に喩えられたJAXA/ISASの方々のご尽力には特に、心から敬服します。

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