いちばんやさしい ウェブアクセシビリティの教本 人気講師が教える誰もが使えるコンテンツ作り
2年前の『できるポケット HTML&CSS 全事典 改訂4版』に続き、発売されたばかりの『いちばんやさしい ウェブアクセシビリティの教本 人気講師が教える誰もが使えるコンテンツ作り』を、著者の加藤さんよりご恵贈いただきました。ありがとうございます!
幅広い内容を、よくぞここまでコンパクトにまとめられたものだなぁ、というのが全体的な感想。同時に、その幅広さが仇となってしまうかもしれない、という点ではいちばんやさしいウェブアクセシビリティの教本 感想 - 水底の血に同意できるところがあります。
思い切ってレッスン18(WCAG-EM/VPAT)やレッスン19(WCAG 3.0)を無くしてしまい、その代わりに各レッスンにある引用の文字サイズを本文と同等に大きくして、ページ数を同程度に維持しつつ内容の幅広さと可読性を調整していただけたら、老眼の私としては嬉しかったかもしれません。
また、これは「いちばんやさしい」シリーズに共通の方針かもしれませんが、テキストであっても「図表」として取り扱われ、付番のうえ本文から参照されている構成には、違和感がありました。どう見ても図でも表でもない内容が多数、「図表」とされていますので。
以下、個別に気になった点を列記させていただきます。いずれも「重箱の隅突き」で、たいへん恐縮です......個人的な感想が中心となりますが、共有させていただきます:
- p.003の「はじめに」で「身体的特性」「身体的多様性」という言葉(p.018では「身体的な特性」というフレーズ)が使われています。アクセシビリティの文脈では、割と「身体的」という言葉に対し「心理的」という言葉が列記されることが多いと感じますが、意図的にそうしなかったのであれば理由を知りたいと思いました。
- p.003の「はじめに」で「多様な閲覧環境の拡大」というフレーズがあります。多様性が拡大している、と解釈できるものの、言い回しにはやや違和感がありました。
- p.012でアクセシビリティの定義を紹介する流れで「ユーザビリティ」という語を登場させているのですが、その場では「ユーザビリティ」とは何かが語られておらず、またp.021への参照もないのは、やや不親切と映りました。
- p.013で「バリアフリー」「ユニバーサルデザイン」に触れていますが、ここで「インクルーシブデザイン」についても触れていただけたらなお良かったのに、と感じました。
- p.024で「多様な利用環境への対応」の例として「古いデバイス」に言及されています。確かに、そういう側面は認めつつも、書き方は難しいと感じました。レッスン13の内容(アクセシビリティ サポーテッド)と繋げる文脈があると、良かったかもしれません。
- p.031の図表05-16で、JIS X 23761を紹介されていますが、EPUB Accessibility 1.1を紹介せずに同1.0相当のJISのほうを紹介した明確な理由があれば知りたいと思いました。
- p.034で「持続可能性な視点」というフレーズがありますが、当初「持続可能な視点」の誤記ではないか、と思いました。軽く検索してみたところ、「持続可能性な」という言葉は割と普通に使われているようでしたので、国語的には問題ないのだと思いますが、私には新鮮でした。
- p.038で「テクニック(達成方法)集」という表記があります。WAICが、かつては達成方法集と呼んでいたのを、テクニック集に呼び方を変えたことへの配慮と映りますが、2026年の今となっては旧呼称の使用がかえって混乱を招かないか不安です。
- p.071で「W3CやWeb Accessibility Initiative(WAI)などの標準化団体」というフレーズがあります。WAIはあくまでW3Cの一部ですから、W3CとWAIがまったく異なる団体との誤解を招きかねない、と感じました。
- p.080の「One Point」で「まずはWCAG 2.0から着手してみよう」とアドバイスされていますが、私は異なる意見をもっています。確かに達成基準の数だけでいえば2.2のほうがハードルが高く映るかもしれませんが、なにぶんスマートフォンが普及するより前の時代の内容ですから、今更2.0を使う意義は低い認識です。従い、同じ達成基準の「つまみ食い」をするなら、2.0や2.1ではなく2.2を使うべきとの立場を取ります。その点は、p.191に出てくる「難易度が現状のリソースに対して高い場合などは、WCAGのバージョンを変更する」という提案についても同様で、使用するWCAGのバージョンはあくまで2.2に固定したうえで、取り組む達成基準を慎重に検討すれば良いと私は考えます。
- p.082でウェブコンテンツの JIS X 8341-3:2016 対応度表記ガイドラインを紹介しているところに「2021年度4月版」という表記がありますが、正確には「2021年4月版」です(「度」が不要)。
- p.085で、PowerShell/シェルコマンドを紹介されているのですが、「いちばんやさしい」シリーズの想定読者層にとって、ここだけ異常にハードルが高くなってしまっていないかとの不安を抱きました。もちろん有用だとは思うのですが......。
- p.088でウェブアクセシビリティ方針策定ガイドラインを紹介する直前「本方針は、」と書き始めている一文がありますが、ここは「本ガイドラインは、」の誤記である可能性があると思いました。
- p.099で日本におけるVPATの活用に言及されていますが、この内容の掲載を是とするならば、情報アクセシビリティ自己評価様式(俗に「日本版VPAT」と呼ばれがちな存在)に言及すべきだったのでは、と思わなくもないです。
- p.102で、芥川賞受賞作「ハンチバック」著者、市川沙央さんインタビューや石川 准 先生の講演資料「読書における障害者差別解消の推進について」p.15を紹介しています。いずれも、私もよくセミナー等で紹介する大変有意義なリソースですが、URLが掲載されていないのは、やや不親切と映りました。
- p.115で「検索性(ファインダビリティ)」という表記がありました。直前にある「SEO(検索エンジン最適化)」と混同される懸念を感じましたし、findabilityという言葉に相当する訳語としては「見つけやすさ」とか「発見性」を多く見聞きしてきたので、違和感を覚えました。
- p.120の「One Point」で、The Business Case for Digital Accessibility | Web Accessibility Initiative (WAI) | W3Cのページがスクリーンショット付きで紹介されているのですが、ページそのものへの言及がないところは、やや不親切と映りました。
- p.131に「アクセシビリティツリー(DOMツリーからブラウザが生成する情報ツリー)」というフレーズがあります。間違っているわけではないのですが、DOMだけではなくCSSOMもアクセシビリティツリーの生成に関与していると理解していますし、そのフレーズが「CSSにおける注意点」という文脈で登場することもあって、言及したほうが良かったように思いました。
- p.195でおそらく本書で初めて「CAPTCHA」という言葉が登場するのですが、ひょっとすると本書の想定読者層のなかにはCAPTCHAをご存知ない方もいらっしゃるかもしれない、と思いました。
- p.223で「Chief accessibility officer」というフレーズがありますが、直後に「CAO」という略語を記載されているので、aとoを大文字にした「Chief Accessibility Officer」表記のほうが望ましかったのでは、と思いました。
- p.231で「品質管理の一貫として」というフレーズがありますが、「一環として」の誤記の可能性があると思いました。
- p.238にある図表42-11は、W3C/WAIのリソースを日本語で紹介しているのですが、URLや英語表記もあわせて記載いただかないことには、なかなか実際にリソースが活用されにくいのではと感じました。
- p.274で「我々ウェブコンテンツ制作者のやること」というフレーズがありますが、「我々」というフレーズが出てくるのは、おそらく本書でここだけだと思います。想定読者層がイコールでウェブコンテンツ制作者なのかどうかが気になりました。
- p.276でThe Web Standards Project(WaSP)に言及してくださっているのは、元メンバーとして大変嬉しく、またありがたく思います。最近の方は、WaSPなんてまずご存知ないでしょうけどね......。
- p.283の「One Point」の〆のフレーズ、「一緒に、よりよいウェブの未来を作っていきましょう」という呼びかけは、本当にそれなー!!という感じで共感できます。所属組織とか、立ち位置とか、守備範囲とか、目の前の仕事がたとえ違えども、同じプロとしてWebに関わっている皆さんには、私もそう呼びかけ続けたいものです。

@kazuhitoは、木達一仁の個人サイトです。主に宇宙開発や人力飛行機、Webデザイン全般に興味があります。Apple製品と麺類とコーヒーが好きです。南極には何度でも行きたい。アクセシビリティおじさんとしてのスローガンは「Webアクセシビリティ・ファースト」。