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WCAG2/JIS X 8341-3にある達成基準の「つまみ食い」のススメ

アクセシビリティ Advent Calendar 2024の22日目の記事です。

12月19日付けで、ウェブアクセシビリティ基盤委員会(WAIC)のサイトに「画像の代替テキストから始めましょう」と題したコラムを掲載していただきました。先日の覚え書きではコラムを書いた動機、背景に触れましたが、この記事はコラムの補足という位置付けで書きます。コラムの冒頭、私は以下のように記しました。

個人的な印象ですが、ウェブアクセシビリティの重要性や必要性を学び、理解したばかりの方々のなかには、やる気に満ちて意気込むあまり、現実離れした高すぎる目標を掲げる方が少なくありません。

敢えてコラムでは掘り下げませんでしたが、ここでいう「現実離れした高すぎる目標」とは、具体的にはWCAG2の適合レベルAAへの適合、JIS X 8341-3の文脈で表現するならば適合レベルAAへの準拠のことです。

いやいや、目標として高すぎるなんてことないのでは? との意見は当然あるでしょう。実際、アメリカで今年4月に更新されたADA Title IIやヨーロッパのEN 301 549 V3.2.1(PDFファイル)、日本のみんなの公共サイト運用ガイドライン(2024年版)はいずれも、要件に適合レベルAAを掲げています。その流れを汲み、大手/グローバル企業を中心に、適合レベルAAへの適合/準拠を目標に据える民間企業も増えているように感じます。

しかし正直、適合レベルAAに適合/準拠したWebコンテンツが増えている、総じてWebのアクセシビリティが全体的に改善されているとの感覚は、個人的に見聞きする話を総合する限り、持てないのですよね。Web Almanac 2024Accessibilityの章を眺めても、2年前の状況と大差ないわけで(もんどさんの書いた「Web Almanac 2024にみるWebアクセシビリティ」参照)。

そこにはさまざまな要因が考えられますし、私自身の不甲斐なさも一因ではあるでしょう。しかし1つの可能性として、多くの組織にとって適合レベルAAへの適合/準拠という目標が現実的ではなく、結果としてWebアクセシビリティのPDCAサイクルがちゃんと回っていない、取り組み自体は存続していても形骸化させている組織が増えているのでは......と。

適合レベルAAに適合/準拠するとは、レベルAとレベルAAに位置付けられた全部の達成基準を満たすということです。その数、WCAG 2.2であれば55、JIS X 8341-3:2016(≒WCAG 2.0)でも38あります。それだけの数の達成基準を継続的に満たすことは、個々の組織にとって達成する見込みの十分ある目標となっているでしょうか? 法律等でそれが求められている組織ならともかく、そうでなければ、目標設定が一足飛びすぎてはいませんか?

最終的な目標に適合レベルAAへの適合/準拠を見据えるにせよ、当初はレベルAへの適合/準拠を目指すとか、あるいはもっと控えめかつ現実的に、レベルAのすべてではなく一部の達成基準を満たす......言わば、達成基準の「つまみ食い」的な目標設定をすべきではないかと私は思います。

たとえばWAICのコラムで書いたように、当初の目標として達成基準 1.1.1 非テキストコンテンツだけを満たすアクセシビリティ方針というのもアリですし、それに(満たす必要性が極めて高い)非干渉に分類される4つを加え、計5つの達成基準からスタートするのもアリでしょう。

無論、未来永劫そのような目標のままで良いとは、思いません。取り組みの成熟とともに、より高いアクセシビリティを実現すべく目標は更新されるべきです。しかし目標に掲げる達成基準の多寡や、どのレベルに適合/準拠するかより肝心なのは、アクセシビリティの継続的改善の実践であり、実際のユーザーにとって使えない・使いにくい状況を着実に減らすことのはず。

ちなみにどの達成基準を「つまみ食い」するかにおいては、適合レベル(A/AA/AAA)に過度にこだわらなくても良いのでは? と思うようになりました。基本的にはレベルAAAよりAA、AAよりもAの達成基準に優先的に取り組むべきではありますが......考え方が変化したきっかけは、WCAG's A and AA distinction is mostly academicWhy is reaching WCAG level AAA not recommended?の両記事であり、それらの発端にあるNo definition of what constitutes an A, AA, or AAA conformance Levelという議論です。

さて。Webアクセシビリティの改善に終わりはなく、よく英語圏ではAccessibility is a journey, not a destination.と言われるように、目的地ではなくまさに旅そのもの。ならば旅の行程、道のりはもっと自由かつ柔軟であっていいし、そうあるべきとも思います。そうでなくては早晩、旅を続けることに嫌気がさし、旅をやめてしまうでしょうから。

WAICのコラムで書いたことの繰り返しになりますが、改めて私は「小さく始めて大きく育てる」アプローチをおすすめしたいと思います。そしてその一環として、WCAG2/JIS X 8341-3にある達成基準の「つまみ食い」を、決して後ろ向きではなく前向きな意味合いで、検討していただけたらと思います。

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