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宇宙開発の不都合な真実

寺薗さんがお書きになった『宇宙開発の不都合な真実』を読了。なかなか刺さりそうというか一般受けしそうなタイトルですが、これは寺薗さんのアイデアかしら、それとも編集者さんとか出版社(の営業)主導で決めたのかしら。もとより宇宙開発の動向は追っかけているほうなので、内容は見聞きしたことのあるものが少なくないですが、この手の書籍を寺薗さんのような専門家の方が出版されたこと自体、画期的で意義深いなぁと思いました。

フットワークの軽さがベンチャーの醍醐味とも言えるのだが、逆に考えると、CEOの一言でサービスが止まる可能性も考えておかなければならない。

上記のくだりは、イーロン・マスク氏がスターリンクをウクライナに提供したことに言及しつつ、企業に宇宙開発を委ねることのリスクを説明しているのですけど、実際この手のリスクがどこまで一般に認知されているかというと......微妙かもしれませんね。リスクの広報と併せて、そもそも今の経済の仕組み自体を宇宙時代に向けどう進化させるかという議論も並行して必要かもしれません。というのは

現状、宇宙資源採掘と科学探査のバランスについてはほとんど議論されていない。むしろ、経済的な側面を優先して探査よりは採掘が重要なのではないかと唱える人もいる。

というくだりを読んでも感じました。経済合理性はもちろん大事だけれど、それを偏重し過ぎてしまうと色々おかしくなる‥‥それが今後NewSpaceでも起こり得る、というか既に起きてるかもだけど。自分としては、そういう暴走を未然に防ぐためにも、もっと長期思考なり社会課題解決という視点が宇宙業界の経営層や投資家に浸透しないとまずいかもなあと思っており(参考:研究成果報告書「社会課題解決手段としての側面に焦点を当てた宇宙開発広報の可能性に関する考察」を公開 - 宇宙開発とサステナビリティ)。

宇宙飛行士が船外活動中に落としてしまったスパナや手袋

上記は、スペースデブリに関するくだりからの引用ですが、「落としてしまった」という表現を採用していたのが興味深かったです。微小重力環境下であっても「落としてしまった」と言えるのかどうか? もちろん可能でしょうけれど、自分だったら「しまい忘れてしまった」とかにするかなあ、と。

日本では、こういった一般の人たちへ宇宙開発をわかりやすく伝える人材の育成は遅れに遅れている。結局、バランス力や伝えやすさの資質を持っている人たちが広報を担っているというのが現状である。

このあたりは、寺薗さんならではの魂の叫びというか、そんな印象を受けます笑。宇宙開発に限らず、いわゆるビッグサイエンス全般に関して広報・PRやそれにまつわるコミュニケーションは喫緊の課題と言えるかもしれません(そういえば大学院でサイエンスコミュニケーションの授業を取ったけど、たいへん面白かったです)。

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