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Re: 『デジタルオーバーレイ』に関する見解について

ファシリティジャポン株式会社が、『デジタルオーバーレイ』に関する見解についてというプレスリリースを発行していました。冒頭、「1. 今回の見解の発表に至った経緯」において、

弊社が開発、提供をしておりますウェブ/デジタルアクセシビリティソリューション『FACIL'iti』(以下、FACIL'iti)について、先日行われました総務省主催のシンポジウムや個人管理のツイッター、ブログで『デジタルオーバーレイに該当する』との発言や投稿がございました。

とあり、私の書いた「情報アクセシビリティ推進シンポジウムとかアクセシビリティ オーバーレイとか」も上記の発言や投稿に含まれていると察しました。事実そうであるなら、記事をお読みいただけたこと、また真摯に見解を公表されたことに、感謝申し上げます。ありがとうございます。そのうえで、同プレスリリースに対する個人的見解を、以下に記します。

昨今欧米において『デジタルオーバーレイ』について一部問題視されているという事実は認識しております。主に問題視されているのは、ツール自体が100%自動化されたものであり、そのツールを利用することでWCAG、RGAA、JISが達成ができる、ウェブサイトのアクセシビリティが100%満たされるという考え方やそれを提唱することが問題だと認識しております。

上記は、私の認識と一部、異なります。オーバーレイが批判されている理由の一つには、確かに引用した後半にあるマーケティング手法があります。しかし前半、つまり個々のオーバーレイにおいてどれだけ自動化されているかは要点ではない認識です。自動化なりAI技術を採用している度合いが60%であれ、100%であれ、0%であっても、オーバーレイはオーバーレイです。目下、業界的に合意されたオーバーレイの定義が明確に存在するわけではありませんが、私も署名したOverlay Fact Sheetから、オーバーレイとは何かを語っている部分を以下に引用しておきます:

Overlays are a broad term for technologies that aim to improve the accessibility of a website. They apply third-party source code (typically JavaScript) to make improvements to the front-end code of the website.

そういう認識の違い、見解の相違はありつつ、

『2』でも示す通り、弊社は一貫してWCAG、RGAA、JISといった規格や基準を達成を目的とした開発、提供は行っておりません。

とプレスリリースに明記されていたのは、ありがたいことだと思いました。意図的に誤解を招いたり、あるいは誇張を含むような、欺瞞的マーケティングを行っていることで批判されている他のベンダーとは、明確に立ち位置を異にされていると理解をしました。しかし、そうであってもなお、私はオーバーレイという手法に異議を唱えます。

規格や基準では取り残されてしまう人々に対して、一人でも多く人が快適なウェブ利用ができるために、オーバーレイが提供している各種機能は、ブラウザなりユーザーエージェントが提供するのが理想との立場を取るからです。そうなれば、どんな(オーバーレイを導入していない)Webサイトでも、あるいはオフライン環境であっても、同じコンテンツのカスタマイズなり、アクセシビリティ/ユーザビリティの向上が実現できるからです。

もっとも、私の立場が机上の空論に基づく、現実味のないものであることは正直に認めます。主観ですが、主要ブラウザの機能やインターフェースは、アクセシビリティやユーザビリティを重視する方向で進化しているとは言い難いからです。また、現状そうであるがゆえに、オーバーレイの存在に一定の合理性はあると思います。とはいえ、規格や基準だけではカバーされていないユーザーのニーズや課題を解決・解消するためのコストを、コンテンツを提供する側が(オーバーレイの導入費用という形で)一方的に担うのは、望ましいコストバランスではないと考えます。

私の個人的見解は、以上です。

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