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月をマーケティングする

単行本を以前所有していたけれど、ちゃんと読む前に処分してしまい、しかし最近になって大学院での調査に必要となり改めてKindle版を買って読んだ『月をマーケティングする アポロ計画と史上最大の広報作戦』。紙版はだいぶ厚みのある記憶があって、読み終わるまで時間がかかるだろうと身構えて?いたところ、予想に反して割とあっさり読了。

一連の広報活動がなければ、とても成し遂げることができなかった

上記の台詞は、かのフォン・ブラウン氏のものだそう。広報の重要性を彼が深く認識していたことの証跡は、本書には複数の箇所で記されていたように思います。彼は生粋の技術者という認識だけれど、同時に広報活動に対しそういう認識を持ち合わせていたのは、個人的に嬉しいです。

広報部はアポロ計画の初期から一貫して、この計画を「大げさに語ったり」「強引に売り込んだり」するのではなく、当時の技術で可能な限り迅速に事実を包み隠さず伝えようとしていた。

現代に至ってもなお、どんな広報にも通用する、大事な考え方だと思います。何でもかんでもおおっぴらにすることが正しいとは限らないのはもちろんだけれど、組織の内外を真摯に橋渡しするのが、あるべき広報、ありたい広報だろうと。

ヴェルヌやウェルズやラスヴィッツの小説が自分の人生を変えたように、火星探索を描いたSF小説を書けば、彼らの小説と同じように人々の心を動かせるかもしれないと考えたのだ。

上記は、再びフォン・ブラウン氏について語っているくだり。まさか小説を書いていただなんて!ちょっと記憶になく初耳な気がするけれど、すごいなぁ。夢であれ野望であれ、その実現に大衆の支持が不可欠となれば、広報でも小説の執筆であっても進んでこなしたわけだ......いや実に彼らしい。

差し迫った社会や政治の問題が新聞の見出しのトップに返り咲くと、国民の視線は月から地球へと移っていった。

アポロ11号の成功をピークとして、急速に大衆の興味・関心が宇宙開発から去っていった様が表現されている一文。当時の世相というのもあっただろうけど「今」同じ轍を踏まないように考えるなら、やはり社会課題の解決手段として必要性を訴えるのが有効ではなかろうか。もちろん限度はあるだろうけど、宇宙開発の進展が人類文明の持続可能性と地続きとの理解が進めば、より良いバランスを獲得し得るのではと。

もし明日、人類を月へ送るロケットの打ち上げボタンを押さなければ貧困問題が解決できるというなら、ボタンは押しません

上記は、アポロ11号の打ち上げ前日にNASAのペイン長官が語ったとされる台詞。多分に政治的な状況下で生まれた言葉とは思いますが、宇宙 vs. 地上という当時から語られがちな二項対立への対応として大変興味深い。

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