地球の未来のため僕が決断したこと 気候大災害は防げる
著
ビル・ゲイツが著者の『地球の未来のため僕が決断したこと 気候大災害は防げる』を読了。彼ほどの人物ともなると、66歳という年齢でも一人称に「僕」が許されるのだな......という謎の感想はさておき、気候変動に関する絶望と希望とがバランスよく書いてあったのが印象的。ただ基本的には楽観的なスタンスが貫かれていて、それは比較的冒頭にある
僕は、状況は変えられると信じている。必要な道具の一部はすでにある。まだないものについても、気候と科学技術について学んだことすべてから、今後発明して展開できると楽観視している。
というフレーズによくあらわれています。そしてまた、彼の主張で特徴的だなと思ったのが
貧困者がよりよい生活を送れるように、世界はさらにエネルギーを供給する必要がある。しかしそのエネルギーは、温室効果ガスをまったく排出しないかたちで供給されなければならないのだ。
というもので、要するに脱成長論者ではないという点が、少し前に読んだ『人新世の「資本論」』の斎藤氏と大きく異なります。どちらかというと、グローバルサウスの人々のことを考えればこそ、脱成長論には賛同しにくいと思っていて、ゲイツ氏の炭素を排出しない限り、エネルギーをさらに使うこと自体はなんの問題もない
という主張にこそ賛同したい......それが実現可能であるならば。その可否の詳細については
温室効果ガスを排出する五つの活動すべてに解決策が必要だと心に留めておこう。ものをつくる、電気を使う、ものを育てる、移動する、冷やしたり暖めたりする、この五つだ。
にある5つの領域ごとに数字を織り交ぜ論じていて、説得力は感じます。
中でも、植物由来の合成肉と並んで期待したいと思ったのが将来の原子力発電で、
さまざまな原子炉の設計案をデジタル・シミュレーションしている。そして、進行波炉と呼ばれる案によって、すべての重要な問題を解決するモデルをつくるのに成功したと考えている。
というのが本当ならすごいことだ。もっともシミュレーションはシミュレーションでしかなく、実際に作ってみた結果どうか、そこが判明するまでは眉に唾つけまくって聞いておかねばなるまいな......ともあれ
ポイントは、技術、政策、市場の三つすべてに同時に力を注ぐことで、イノベーションをあと押しし、新しい企業を誕生させて、新製品を早く市場に送りこむということにある。
というのは凄く正しいなと。どれだけ素晴らしい技術があっても、それ単体では決してうまくいかなくて、政策と市場の後押しがあって初めて離陸できる、というのは割と身近な事案、例えばWebアクセシビリティについても納得できるところ。
国際協定をばかにするのは簡単だが、進歩にはそれも欠かせない。オゾン層があってよかったと思うのなら、モントリオール議定書という国際協定のことを考えてみるといい。
上記については、SDGsについても言えるかな。先述の斎藤氏は『人新世の「資本論」』においてSDGsを現代版「大衆のアヘン」
などと揶揄されていたけれど......確かにSDGsバッジに象徴される、ファッションとしての普及なりウォッシュっぽい風潮は残念だけれど、いっぽうSDGsがバズったおかげで社会課題に対する理解は確実に進んでいるのはないかと。そして
あなたにできる最も効果的なことは、自分自身の炭素排出を減らすことではない。みんなが炭素ゼロの代替物を望んでいて、それにお金を払う意思があるというシグナルを市場に送ることだ。
というアドバイス、わかりやすい。機会はまだそう多くない気もしますが、積極的にその種のシグナル、送っていこう。ちなみにゲイツ氏は僕のカーボン・フットプリント(二酸化炭素排出量)がとんでもなく高いのは事実だ。そして、それにずっと罪悪感を覚えてきた
と極めて率直に吐露していたけど、彼は彼なりに脱炭素のイノベーションに相当な額を投資し(中には完全に失敗=無駄金となったものもある)、また本書を筆頭に市場を動かすべく努力をしているわけで、素晴らしいと思いました。