人新世の「資本論」
著
しばらく前に『人新世の「資本論」』を読了。順番的には、ドーナツ経済のを先に読みたかったのだけど、どうしてもこちらの内容が気になってしまってね。賛同できるところ、よくぞ言語化してくださったなぁと感じたところは多く、またミヒャエル・エンデ氏がご存命であったら、趣旨には賛同されたのではないかな......という感想。タイトルにある「人新世」、読み方は「ひとしんせい」らしいのだけど
人類の経済活動が地球に与えた影響があまりに大きいため、ノーベル化学賞受賞者のパウル・クルッツェンは、地質学的に見て、地球は新たな年代に突入したと言い、それを「人新世」(Anthropocene)と名付けた。
というのが語源らしい。マルクスの『資本論』を折々に参照しながら、「人新世」における資本と社会と自然の絡み合いを分析
したのが本書なのだけど、
資本主義は現在の株主や経営者の意見と反映させるが、今はまだ存在しない将来の世代の声を無視することで、負担を未来へと転嫁し、外部性を作り出す。将来を犠牲にすることで、現在の世代は繁栄できる。
というのがまず極めて重要な指摘であり、「外部性」とか「外部化」は本書ではたびたび出てきたキーワードのように思うけれど、要は影響範囲の意図的な矮小化であって、「見て見ぬふり」をしてきたのだろうな。Sustainableの定義が『Our Common Future』にあるmeets the needs of the present without compromising the ability of future generations to meet their own needs
なら、すっかり真逆のことをしてきたわけだ、少なくともこれまでは。その実態が、グローバル化や地球観測技術の進歩などにより、ようやく可視化されつつある印象。
マルクスの物質代謝論を思い出してほしい。資本の無限の価値増殖を求める生産が、自然本来の循環過程と乖離し、最終的には、人間と自然の関係のうちに「修復不可能な亀裂」を生むという見方だ。
現在よりはるかにデータは少なかっただろうに、そういう見方を当時されていたというのは、すごいことだなぁ。別にマルクスを信奉しているわけでもファンでもないけれど、上記の引用箇所より前で紹介されている人間はほかの動物とは異なる特殊な形で、自然との関係を取り結ぶ。それが「労働」である
という指摘も合わせて、言われてみれば......ではあるものの、すごい。
最新のマルクス研究の成果を踏まえて、気候危機と資本主義の関係を分析していくなかで、晩年のマルクスの到達点が脱成長コミュニズムであり、それこそが「人新世」の危機を乗り越えるための最善の道だと確信した
著者が未来に向けて取りうる有望な選択肢として力強く提案しているところのコミュニズム、自分は今のところ懐疑的ではありますが、既にその種の社会実装が一部では始まっているようで(国境を超えて連帯する自治体もその一例?)、進捗なり具体的な成果にはアンテナを張りたい感じです。