情報アクセシビリティの推進
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冷たい雨が降り続いた11月23日の覚え書き。日中は引きこもっていたのだけど、暗くなってからミッドタウン・タワーへお出かけ。SFC Open Research Forum 2019のセッション、情報アクセシビリティの推進を聞きに行きました。使用されたスライドは後日公開されるのだろうか? 来場者との質疑が最後に設けられたけど、基本的にはパネリストが順に講演をする、議論というよりは普通の講演会に近いスタイル。とりま、箇条書きでメモをまとめます。
石川氏の講演
- 障害者権利条約
- 締約国は180、ほとんどの国が批准
- ただしアメリカは批准していない
- 障害の社会モデル
- 機能的障害×社会的障壁=社会的障害
- 掛け算なので、社会的障壁を減らせばその分、社会的障害は減らせる
- 機能的障害×社会的障壁=社会的障害
- 3つのPDCAサイクル
- 情報アクセシビリティ
- 日本では個別法は未整備
- 障害者差別解消法は理念法
- 障害者政策のほぼ空白地帯
- 日本では個別法は未整備
- 関係法令、施策の進捗
- WIPO マケラシュ条約批准
- 読書バリアフリー法の制定
- 移動等円滑化法、バリアフリー整備指針にウェブアクセシビリティ指針が新設される
- デジタル共生社会実現会議報告書の策定
- 電話リレーサービスワーキンググループの報告書が間も無くまとまる
- 電子書籍のアクセシビリティ
- 米国・EUの効果的なアクセシビリティ政策
- Kindle電子書籍はiOSやAndroid内蔵の音声読み上げ機能を使ってKindleアプリで読書できる
- Amazon Accessibility Advisory Council
- シアトルで参加していて、昨日帰国したばかり
- 専門家から意見を聞いてアクセシビリティを改善するAmazon独自の枠組み
- 企業独自のPDCAサイクル
- 米国のアクセシビリティ政策
- リハビリテーション法508条
- 代表的な公共調達法
- 連邦政府は巨大かつ最大の顧客
- 2017にアクセシビリティ基準を改定
- 欧州のEN 301 549と高い整合性
- WCAG 2.0とも高い整合性
- リハビリテーション法508条
- 21st Century Communications and Video Accessibility Act(CVAA)
- 21世紀における通信および映像アクセシビリティ法
- 民間事業者にとってのインセンティブになる
村田氏の講演「標準化による電子書籍のアクセシビリティ」
- Advanced Publishing Laboratory(APL)とは
- 未来の出版に関する研究を行う
- 読書のアクセシビリティはなぜ必要か
- 必要とする人がいる
- 社会が要請している
- 障害者差別解消法
- マラケシュ条約
- 読書バリアフリー法
- 紙の本が読めない 読み難い状況とその原因
- たくさんある(紙の本が読めない 読み難い状況とその原因 · Advanced-Publishing-Laboratory/A11Y Wiki · GitHub)
- 個別に対応するのは困難
- たくさんある(紙の本が読めない 読み難い状況とその原因 · Advanced-Publishing-Laboratory/A11Y Wiki · GitHub)
- 標準化によるアクセシビリティ
- @W3C:CSS分かち書き、アクセシブルなルビ
- @ISO/IEC:EPUBアクセシビリティ(DAISYが開発し日本が標準化提案、現在投票中)
- @JIS:EPUBアクセシビリティ(来年にも公示?)
- EPUBコンテンツ制作者、EPUBリーダ開発者、電子書店、電子図書館がどう協力すれば良いかを示す
- 具体例:ルビと分かち書き
- 読字障害への対策
- 標準化の先取り
- DAISY教科書関係者による電子書籍ビジネスの先取り
工藤氏の講演「デイジー図書・EPUBのアクセシビリティ」
- デイジー図書
- 障害者向けの電子図書
- 音声のみ
- 見出しジャンプなど、カセットテープでは実現できないナビゲーション機能が充実
- マルチメディア
- SMIL使用
- テキスト
- 合成音声で読む想定
- 録音不要で制作が簡単
- 音声のみ
- 障害者向けの電子図書
- EPUB
- デイジーを元に作られた汎用的な電子書籍形式
- EPUB3は、デイジーのバージョン4に相当
- Media Overlaysで録音音声を組み込める
- デイジー・EPUBのデモ
- 録音を聴きやすく、スピードやピッチをカスタマイズできる
- 本文表示も文字サイズ、書体、色の組み合わせなどをカスタマイズできる
- アスペルガーの人は色の組み合わせに敏感
- タッチした場所に飛んだり、ピンチインで大きく表示
- 目次からジャンプしたり、移動単位を柔軟に変更可能
- しおり機能
- 分かち書き、分け方を斜め線やスペース、横線にも変更可能
- ルビの有無を切り替え可能
- 書誌情報(本の特性)を提示可能
河村氏の講演「デイジー規格の普及と課題」
- 昨年、学校教育法改正
- 障害者にはデジタル教科書使用可能
- デイジー教科書の機能が政府説明で使われた
- ここでいうデジタル教科書とは、教科書発行者が発行したもの
- デイジーを使った教科書はボランティアが作っている
- デジタル教科書のデモを見て......
- 残念ながら期待はずれ
- デジタル教科書はデイジー教科書に劣る
- デイジー教科書に携わるボランティアの思い
- 一人一人のニーズをどう満たすかが大事
- 自閉症スペクトラム症の人は特定の人物の声へのニーズがある
- 定型的なものは教科書発行者にやってほしい
- 授業に間に合わせるのはボランティアには重荷
- 一人一人のニーズをどう満たすかが大事
- 残念ながら期待はずれ
- 学校教育法における「障害等」の「等」
- 外国人が含まれる
- 障害はないかもしれないが日本語に通じていない
- 日本人でも発達障害者、学習障害者のニーズはある
- 外国人が含まれる
- デイジー教科書は著作権法によると障害がないと使えない
- 5万人以上いる日本語の通じない子供達のうち、300人が特別支援学校・学級に在籍
- デイジー教材が使える
- 様々な課題が解決されているとの報告あり
- デイジー教材が使える
- 5万人以上いる日本語の通じない子供達のうち、300人が特別支援学校・学級に在籍
- 著作権法との兼ね合いを今度どうするか?
- 法解釈で切り抜けるか
- もっと明文化して法改正するか
- 教科書発行者にデジタル教科書のアクセシビリティを完備させるか
- 技術はなんとかできてる、制作人材も目処が立つ、あとは政策的にそれを必要とする人々にどう届けるか
- ボランティアに依存するのは不安定、公正さに欠ける
谷脇氏の講演「デジタル共生社会の実現に向けて」
- データ主導社会
- データは21世紀の石油
- 経済成長にデータは重要
- リアル社会とサイバー社会の間をデータが循環
- デジタル共生社会=データ主導社会の便益を広く共有できる社会
- 本格的なIoT、AI活用、Society 5.0の到来
- 5G(4Gの100倍高速、低遅延、多数同時接続)の進展
- これまでは地理的格差の是正に注力
- 本格的なIoT、AI活用、Society 5.0の到来
- 地域課題解決のための5Gの開発実証
- 70億円の予算をかけて実施予定
- その一環として情報アクセシビリティに取り組めないか
- 70億円の予算をかけて実施予定
- スマートシティw/デジタル共生社会
- 構想に情報アクセシビリティ組み込んでいく必要
- 基本的人権=便益の共用性
- IT基本法には十分な言及がない
- 理念法であるがゆえ
会場との質疑
- 電話リレーサービス、チャットではダメ?
- 谷脇氏:チャットが使える人はそれでいいが、高齢者にキーボードは難しい。いずれはデジタルに寄せていく
- マラケシュ条約では教科書の著作権はどうなっている?
- 河村氏:日本は今年1月に批准した。障害者のために作られた著作物は国際交換できるが、対象者は障害者に限定されており、どう拡張するかが課題。コスト面、文化的・言語的多様性への基本方策はあってしかるべき
- 多様性に社会を合わせていく実装例は?
- 石川氏:柔軟な環境設計の具体例として、スマホに最初から組み込まれているのアクセシビリティ機能がある。他にも高等教育における障害者支援、多様なニーズを持った学生への対応がある
- 文字についての話があるが、数学を学ぶ際の対策とは?
- 石川氏:理系教育において数式のマークアップ、数式の点字表現、音声読み上げなどへの対応が必要。実験、実習などでも工夫が必要。AHEAD JAPANに携わっている
- 村田氏:化学式の問題もある。W3CにはChemistry for the Web and Publishing Community Groupがある
- 学ぶ時間を取れない外国人労働者への日本語教育など、教育の問題、どうするか
- 谷脇氏:災害情報を伝えるのは課題。現状エリアメールの本文は日本語であり、改善を掛け合っており来夏までに解決したい。自動翻訳のVoiceTraを無料で提供するなど、技術で補えるところは補っていく
最後に登壇者が一言ずつコメントされたのですけど、中でも印象的だったのが、河村氏の多様性のもつ価値についてのお話。多様性を是とすることが社会自体の強さにつながる、というのは自分も同感です。そのためにもアクセシビリティの充実を促進しなければならないし、誰でも加齢に伴い多重障害を持つのだから......というのも、ごもっとも(自分もよくセミナーでは指摘している点)。それから谷垣氏のコメントも興味深かったです。高齢者の割合というのは高くなる一方ではなく、いずれ一定の割合で定常化するそうで、その傾向は他国での予測も同じ。他国の20年先を行っている日本で、高齢化社会向けのソリューションを作れれば、それは大きなビジネスチャンスにもなると。