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パブリッシング - 出版の未来をウェブに見る

11月22日の覚え書き。アドバンスド・パブリッシング・ラボのお話が聞けるというので、東京ミッドタウンで開催された慶應義塾大学湘南藤沢キャンパス(SFC)のOpen Research Forum 2017でセッション「パブリッシング - 出版の未来をウェブに見る」に参加をしました。登壇者は村井 純先生、石川 准先生、それに講談社社長の野間 省伸氏、総務大臣政務官の小林 史明氏。

冒頭、村井先生からセッションの企画趣旨みたいなお話があったのですけど、そこからして良い刺激を受けました。具体的には、Publishingの訳語として「出版」は妥当なのか?という問題提起。しかし逆に、村井先生のおっしゃった通り、Publishingの意味が「みんなに伝える」であるなら、出版社に面子が偏って構成されているアドバンスド・パブリッシング・ラボとは一体何なのか......とのブーメラン感が微妙にしなくもない(ただ、村井先生のお話がいつ聞いても面白いのは、アドリブでしっかりオチを付けるんですよね......セッション全体の最後では質問をしたSFCの学生さんを持ち上げつつのクロージング、見事でした)。

続いて石川先生の講演「出版とアクセシビリティ」では、概ね過去のセミナーで伺った内容と重複してはいたのですけど、サブタイトルが「政策なくしてアクセシビリティなし」となっていて、いやまさにそうだよなと。じゃあ電子書籍はもとより情報アクセシビリティの担保を強制し、空白地帯を埋める政策はいつできるのか、というのを最後の質疑応答で突っ込んでみたんですけど、小林氏の回答としては年末に選挙の投票環境の見直しに向けた議論を行うので、それをとっかかりに盛り上げられれば......という感じで、微妙にかわされてしまったかも。

講演後のパネルディスカッションでは、その小林氏の発言が結構、面白かったです。アメリカのスタートアップがやっているのは「ペイン」を発見しその「ペインキラー」を作ることで、一部の人のために作られたペインキラーが、その後より多くの人にとっても有効なペインキラーになった事例は多くあるのでは?って話とか、日本は人口が減るからこそ一人一人の価値を高める必要があり、その先に豊かな社会が作れるという楽観を若い世代に与えたい、この国をフェアな社会にしたいっていうすごくエモい発言とか......あとは日本は協調領域(標準化)と競争領域を分けて扱うのが下手だよねとか、昔は紙が軸だけど今はコンテンツが軸だとか。

石川先生の発言からも拾っておくと、法で(アクセシビリティ対応を)強制するのは楽しくない、というのはもう1000%同意というか同意しすぎて首がもげそうになったというか、「自然に多様性に対応する社会が良い社会、健康な社会」と自分も信じているからこそ、自分のできる範囲で取り組んできたつもりなので。改めてボトムアップと政策のバランスが大事だと思ったし、その政策が不十分な現状において、業界の自助努力だけでは限界を感じているがゆえに、今後の政策整備に強く期待したい(っていうのを終了後に石川先生に軽く直訴しました)。

また石川先生は、DRMとアクセシビリティの関係に言及した後、誤読についてもお話されました。曰く、SSMLの使用を強制し、どんな低レベルなTTSでも正確に読み上げられるようにするのは過剰な反応だろう、と。その一方でナビゲーション、つまり電子書籍のあるべき構造化やそれに基づくRS側の実装に関する議論は少なく、そういう「急所を外した議論」は気持ち悪いとのこと。DRMのお話で思い出したのは、今だにたまーに見かける、ダウンロードの防止を意図したと思しき右クリック禁止テクニック。ユーザー側にはアクセスした時点でダウンロード/キャッシュされてるっつーのにね......みたいな。電子図書館TRC-DLでは、著作権の絡みから文字情報はCanvasでレンダリングさせていると先日伺いましたが、若干それにも通じるお話かもしれません。

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