頭字語に空白文字を挿入することの是非とWebアクセシビリティ
著
これは『電子書籍アクセシビリティの研究』公刊記念シンポジウムの補足記事です。
『電子書籍アクセシビリティの研究』公刊記念シンポジウムに参加しての感想とか、 @momdo_ さんとのやりとりとかにまとめたように、「イット」と読ませず「アイティー」と読み上げさせるためにIとTの間に空白文字を挿入することの是非に関連し、F32: 達成基準 1.3.2 の不適合事例 - スペースを用いて、単語内の文字間を空けているが話題にあがりました。その解説には、
頭文字語の文字間に空白文字を挿入することはこの不適合事例には当たらない。空白文字が頭文字語の解釈を変える訳ではないし、むしろ理解しやすくするかもしれないからである。
とあります。このくだり、@momdo_さんに指摘されるまで認識していなかったため、Webコンテンツにおいて「IT」を「I T」と書くようなことはアクセシビリティ確保の視点から避けるべき「ご法度」とつぶやいたのは誤りだったと、自分の不勉強を恥じたわけですけど、この話には続きが。@momdo_さんが原文(F32: Failure of Success Criterion 1.3.2 due to using white space characters to control spacing within a word)を確認された結果、上述の訳文に相当するのは
Inserting white space characters into an initialism is not an example of this failure, since the white space does not change the interpretation of the initialism and may make it easier to understand.
であり、訳文で「頭文字語」とされているのは「initialism」です。そして頭字語 - Wikipediaにあるように、頭字語には読み方に紐づいて2種類(イニシャリズムとアクロニム)が存在します。つまり現状の訳文は、原文に対してやや不正確ということになります(これは別途、ウェブアクセシビリティ基盤委員会に修正の検討を依頼すべき事案)。
「IT」は「アイティー」と発音しますので、つまりイニシャリズムであり、Webコンテンツで「I T」と表記しても、達成基準 1.3.2 の不適合事例に当たりません。しかし、『電子書籍アクセシビリティの研究』において誤読回避のために採られた改変の事例にあった、「EPUB」を「E PUB」と表記するのは、EPUB(「イーピーユービー」ではなく「イーパブ」と発音)がアクロニムであるがゆえに、それが仮にWebコンテンツにあったなら、不適合事例に当たると考えられます。
WCAG 2.0の不適合事例に当たらないからといって、積極的にイニシャリズムの文字間に空白文字を挿入して良いかといえば、それはまた別のお話だと思います。視覚的に若干わかりにくくなったり(頭字語と識別しにくい印象を受ける)、コピー&ペーストによる再利用がしにくくなると思っているので、個人的には挿入に反対ですが......。
[ 2017-02-02 追記 ] @momdo_さんの返信記事、Re: 頭字語に空白文字を挿入することの是非とWebアクセシビリティ - 水底の血も、あわせてどうぞ(謎