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Re: 「合理的配慮」の基盤としての情報のアクセシビリティ

専修大学文学部の野口武悟氏がお書きになった、『「合理的配慮」の基盤としての情報のアクセシビリティ』を読みました。内容としては、来年4月の障害者差別解消法施行に向け、公的機関と民間企業の別を問わず情報アクセシビリティ向上の必要性を訴求するもので、多くは参考になる、あるいは非常に同意できるものです。とりわけ、「5. 情報のアクセシビリティのこれから」にある

発信された情報そのものがアクセシブルなものでなかったとしても,ICTを駆使することで,視覚障害者等が自分でアクセシブルな方式の情報に変換することも可能となった。たとえば,印刷出版物をスキャニングして(いわゆる「自炊」して),TTSで読み上げるなどである。しかし,こうした方法は,それを使いこなせる人にとってはアクセシビリティ向上に資する便利なものとなるが,そうでない人にとっては逆に「情報格差」を生じ,広げることになりかねない。

やはり,情報の発信者自身が自ら発信した情報のアクセシビリティの確保に責任をもつべきである。「障害者の権利に関する条約」を批准し,「障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律」の施行を目前に控えたいま,このスタンスが大前提とならなければならない。

というのは、まったくその通りだと思います。たとえば昨今の画像解析技術の進展は目覚ましく、画像に写っている顔から人物を特定したり、あるいは動物の種類をある程度の確度で類推するといったことが機械的に可能になっています。Webのアクセシビリティにおいて最も基本的な対応事項のひとつである、非テキストコンテンツに代替テキストを付与するといったことを「わざわざ」行わずとも、ブラウザや支援技術によってあらゆる画像に自動で代替テキストが提供される、なんてことが遠からず実現されるかもしれません。

仮にそうなったとして、じゃあ情報の発信者自身はどんどん手を抜いて(代替テキストを指定しないで)良いのか? と言えば、自分はそうは考えていません。確かに省力化できる部分は増えるかもしれませんけど、他力本願すぎる印象があります(「他力」の対象がブラウザベンダーであれGoogleであれ)。代替テキストもコンテンツの一部であって、それは情報の発信者がその責任において全体の文脈を踏まえ提供すべきとの位置付けが変わることはないと思います。もちろん、画像解析技術の進化自体は素晴らしいことだと思いますし、上記の前提においてなお、障害当事者やそれを必要とする誰もが画像解析技術を活用して、より便利にコンテンツを活用できるようになる状況を歓迎はしますけどね。

それはそうと、当該の記事「4.2.2 Webサイト」で、Webサイトで発信する広報と防災情報のアクセシビリティの現状について調査されているのですが、その調査方法が妥当とは思えませんでした。以下の3項目につき、その有無を調べていらっしゃいますが、JIS X 8341-3:2010や「みんなの公共サイト運用モデル改定版」を引き合いに出していながら、なぜこの3項目だけでWebアクセシビリティの現状を測れるとお考えになったのか......非常に疑問です。

いずれの項目も、Webアクセシビリティと無関係というわけではありませんが、しかし実装していなかったからといってコンテンツが非アクセシブルとは言えないものばかりです。少なくとも JIS X 8341-3:2010 / WCAG 2.0 において、これらが必須とはされていません。特に文字拡大機能については、第2回「アクセシビリティBAR」秋の文字サイズ変更ボタン祭り 開催 | 水無月ばけらのえび日記にあるスライドで提起されているような問題点を孕む実装が少なくありません。こうした「一見してアクセシビリティに取り組んでいるように見える」存在ほど、それが本当にアクセシビリティ向上に寄与しているかどうかは慎重に判断する必要があるというのは、自分が繰り返し講演などで口酸っぱく言っているポイントでもあります。

アクセシビリティおじさんからは、以上です。

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