障害者の読書と電子書籍
著
5月7日に開催が迫るイベント「ウェブから学ぶ電子出版の可能性~多様な読書スタイルを考える~」に向けた準備の一環で、『障害者の読書と電子書籍』を読みました。電子書籍についての本が電子化されていない(少なくともKindle化はされていない)というのはどうなんだろうとは思ったけれど、なにぶん時間がなかったので紙のものを購入。普通の本より本文の文字がいくぶん大きめなのが、割とすぐに気づく本書の特徴かな。それが障害者への配慮の一環かどうかは分からないけれど。
本書は、節ごとに異なる方が執筆しているためか、読み進めるうちに微妙に内容というか主張の重複、冗長さを感じました。それでも、サピエやテキストデイジー/マルチメディアデイジーについて以前よりも詳しくなれたし、国内法とのかかわりについては特に勉強になりましたね。個人的に印象的だったくだりをいくつか抜き出してみると、教科書に関するものや末尾の対談からのものに偏っていますが:
視覚障害以外に、見えているのに読むことに著しい困難を抱えている読み障害のことはあまり知られていない
障害児童生徒向けデジタル教科書に対して今日まで何ら公的予算措置が取られていない
教科書として選定されると一定部数以上の販売数が確保されるため、出版社に対して電子データの提供という負担を課すことも受け入れられやすい
読むことは「生きること」
文字の読み書きがすべての国民にとって障害の有無や身体的条件その他の要因にかかわらず社会に積極的に参加し、人生をより深く心豊かに生きる上で欠くことのできないもの
読書が困難な人に対する新しいサービスを開発することは、実はわれわれ晴眼者にとっても非常に便利なシステムがたくさんできることになります
出版社がちゃんとした、ユニバーサルデザインに基づいた、誰でもがアクセスできるデジタル図書を出していただければ自炊は必要ではなくなります
出版社から優良なユニバーサル版が出た場合、全国の図書館に普及していけば、出版社のイニシャルコストは賄える
といった感じ。このあたりの事実なり考えも踏まえて、7日のイベントに臨みたい。ちなみにイベントは障害者に特化したものではないのですけど、視覚や身体に障害があったり、あるいは学習障害等から文字が読めない・読みにくい方向けに読書体験を提供するいち手段としての電子書籍、というのは確実に多様な読書スタイル
の範疇。折しも、5月16日には日本出版学会の2015年度 春季研究発表会・総会が催され、そのなかで「出版物のアクセシビリティ――出版の立場から議論する」というセッションがあるそうで。アクセシビリティという切り口から電子書籍のあるべき姿、将来像を模索する試みが盛り上がりつつあるのかしらね。
あと完全に余談ですけど、オーディオブックについての節を読みながら、人気のある声優さんの読み上げを録音したオーディオブックなら、障害の有無に関係なくニーズがあったりしないかなぁと思ったり。僕はあまり詳しくないですけど、声優さんのファンてすごく多いイメージがあって(鳥人間のパイロットでも......)、うまくビジネス化できればオーディオブックの充実、特に新刊本の音声化のスピードを上げるみたいなこともできるんじゃないかなと思ったのですが、そこまで話は単純でもないですかね。