講演会「世界一のロケット技術をめざして」
著
前日の大雪の影響が残るなか、息子を連れさいたま市青少年宇宙科学館へ。若田宇宙飛行士展の一環として企画された講演会、「世界一のロケット技術をめざして」~新型ロケット イプシロンの開発について、JAXAの先生に教えてもらおう~に参加するためです。講師はもちろん、次期固体ロケットプロジェクトマネージャの森田泰弘氏。ただ講演のスライドには「未来を拓くイプシロンロケットの挑戦 〜みんなの夢をのせて〜」とあったから、スライドについては別の講演の流用だったかもしれません。お話はとても面白くて分かりやすく、子供向けに話し慣れている印象で、終始絶やさぬにこやかな笑顔が印象的でありました。以下、講演内容の要点の覚え書き:
- 昨年、待望の試験機一号機の打上げに成功したけれど、本当に大事なのはこれから。
- 森田氏のスタンス:過ぎたことよりこれからのことを考えたい。
- ペンシルロケットより数年前、東京とニューヨークを数十分で結ぶ、ロケット飛行機の研究という壮大な計画があった。
- 糸川教授により、世界に追い付き追越せではなく、世界の先を行くというフロンティア精神がもたらされた。
- 夢を諦めない、というのが本日の講演の基調。
- 博士課程一年目でロケット開発に目覚めた年に、大ファンの阪神が21年ぶりに優勝。また2003年にJAXAが組織され、45歳でM-Vロケットプロジェクトマネージャになったとき、再び阪神が優勝。さらに、責任者になって初めてのM-Vロケットの打上げを迎えた2005年にも阪神が優勝。(東京生まれなのに、なぜそこまで熱烈な阪神ファン?)
- 純国産で世界最高性能のものを作り上げて来た、世界に胸を張るモノづくりの醍醐味「NASAなんてクソくらえ」。
- これからは小型・高性能・低コストの時代、つまり日本が最も得意とする分野で世界に貢献できる。いろいろな人が宇宙に挑戦しやすくするには、とにかく安くしなければならない。
- ロケット開発の責任者である前に、いち宇宙ファンw(自身が打上げ前の人工衛星に映り込んだ写真を自慢げに見せながら)
- みんなの宇宙への敷居を下げるには?コスト、性能、運用設備、乗り心地が大事。サンダーバードのようにボタン一つで飛んで行け!
- トータルバランス(高性能&高信頼性&低コスト)の最適化には、製造プロセスの改革も含まれる。柔軟な発想で改革を進めることが大事。
- 部品の点数を減らす→安くなる&壊れにくくなる&軽くなる=性能が上がる。一粒で3度おいしいロケット開発。
- 森田氏、グリコのキャラメルがなぜ一粒で2度美味しいのかいまだに知らないって仰ってましたけど、ググったら出てましたよ(牛乳からつくったホエイの風味と、カリフォルニア産アーモンドの実、で2度)。
- フェアリングの開発で採用したのが「ガンプラ方式」。つまりは一体構造によりプラモデルのごとく部品点数を減らしたとのこと。
- 世界に先駆けて打上げシステムを改革、モバイル管制を実現。アポロ方式(人間がやるとPC50台&100人が数時間)からイプシロン方式(PC2台&8人が数十秒)へ!当初は無理だとか意味ないとか言われたけれど、実現後発表したときには海外から「悔しそうな」スタンディングオベーションを受けたそう。
- 本音は甲子園の決勝戦みたく感動のあるアポロ方式を続けていたいけれど、それを続ける限り宇宙へのチャンスは増えない。
- PCは本当は1台で発射できるのだけど、その1台が壊れたらどうするんだということで、本当は1台で出来ると言いたいところを2台と言わされているw
- イプシロンはPCとの通信にイーサネットを採用。現状ではサイバー攻撃を恐れインターネットとは接続していないけれど、いずれは携帯電話や時計に仕込んだコンピュータからロケットを打上げたい(「オメガロケット」と呼ぶ?)。
- モバイル管制により、今までは発射台近くの地下にあった管制室も、2km離れた会議室に。ヘルメットの着用も不要。
- 固体ロケットの遺伝子=非常識に挑戦するフロンティア精神。世界が無理だと言ったことを次々とやり遂げて来た(ペンシル:レーダ技術なしにロケット実験、ラムダ:誘導制御技術なしで衛星打上げ、はやぶさ:全段固体で小惑星探査)。
- 「過去にとらわれず、良いロケットで未来を拓け」という秋葉先生の言葉が発端で、ロケット本体でなく打上げシステムの改革(モバイル管制)へ。
- 一番大切なのは人の力。ロケットは技術だけで打てるものではない。人を育て、人を生かし、技術を人で伝えるイプシロン。
- 出身校の目黒区立第十一中学校は、1972年のミュンヘン五輪で東ドイツを破り金メダルを取った日本男子バレーのメンバー2名をも輩出。そこで思ったことが「いつか自分のオリンピックをみつけて、自分の金メダルを取りたい」。皆さんも夢をみつけて全力で取り組んで欲しい。
以下は、質疑応答の内容の覚え書き。結構、小学生が専門的な内容を突っ込んでましたw
- 地上の振動、スペースデブリへの対応は?
- 振動については、あまり音がでない仕組みを発射台に設けた。乗り心地が乗用車くらいにはなれたと思う。スペースデブリについては、最終段に小さい液体エンジンを取り付け、燃え尽きるまでの時間を縮めるよう軌道を下げる取組みをしている。
- 近くで打上げの様子を撮影していたカメラは壊れなかったの?
- 壊れたカメラもあれば、離れていて壊れずに済んだカメラもある。壊れない範囲でできるだけ近くから撮影したいと思っている。
- ガンプラ方式は量産効果を生むか?
- いずれは年に数回の打上げを考えており、同じ金型でフェアリングを生産できる前提では安くもなるだろう。
- 今後どんな衛星が打ち上がる?
- 次の2号機は、磁気圏を観測するERG(エルグ)。3号機、4号機はまだ決まっていないが、地球観測計画の可能性がある。5号機の候補はたくさんあり、惑星空間か月か、いろいろな検討がなされている。
- ロケットエンジンはどうやってできているの?
- ロケットには大きく2種類あり、液体ロケットではエンジンが要るが、イプシロンのような固体ロケットにはエンジンが要らない。
- 載せることのできる荷物の量は?
- 最大で1.2トン。
- 次は何年後に打上げる?
- 2号機は来年12月を予定。2年ほど空くが、毎回コストを下げ性能を上げる必要があり、それだけ時間がかかる。搭載できる重量は2割増える見通し。以後は毎年打上げたい。
- 衛星を2機搭載できる?
- マルチの打上げは考えている。チャンスを増やすのがイプシロン!
- これからのロケットの名前は決まっている?
- まだ名前はついていないが、H-IIA/H-IIBの後継として、新たなロケット開発が始まろうとしている。
なお、特別展示室での若田宇宙飛行士展の展示物のなかでは、小学生のときに書いた作文や絵も興味深かったけれど、鳥人間コンテスト参加当時の写真が一番グッと来ました。やはり自分との共通点があると嬉しいものです。