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WAICの新人事に寄せて

ウェブアクセシビリティ基盤委員会(WAIC)のサイトで11月1日に掲載した通り(委員会の新人事に関するお知らせ参照)、このたび同委員会の副委員長、ならびに作業部会1(理解と普及)の主査に就任しました。これまで作業部会2(実装)をメインに、並行して作業部会1にも参加してきたのですけど、今後はどちらかといえば作業部会1での活動に軸足を置きつつ、副委員長のひとりとして植木委員長、そして委員会全体の活動を支えていくことになります。マークアップやスタイルシートの設計、およびその周辺業務を中心に長くこの業界で働いて来たこともあって、作業部会2から軸足を移すことには若干の寂しさを覚えますが、それ以上に傍から見ると「なぜ(作業部会2ではなく)作業部会1の主査に?」と思われるかもしれません。

100%主観ではありますが、自分の現状認識を書くならば、日本のWebアクセシビリティは、かつてないほど危機的な状況に陥っていると思います。Webというメディア、コミュニケーション・チャネルにおいて、最も本質的な価値を提供するために、アクセシビリティの確保は必要不可欠な取り組みです。にもかかわらず、今やすっかり下火になってしまった感があるのです。

企業として積極的にWebアクセシビリティの確保・向上に取り組んでいるのは、いまだ全体からするとごく一部に限られているように思います。そこそこの規模があって、あるいは国際的にビジネスを展開していたり、もともとCSR的な意識の強い企業だったりすると、昔も今も変わらずWebサイトのアクセシビリティ対応に努めているのでしょうが、しかし年を追う毎に取り組みの裾野が広がっているとの印象は感じません。これは、企業担当者の側への啓蒙が不十分であることの証左かもしれませんし、アクセシビリティ対応といえば障害者・高齢者対応と同義と捉える向きがいまだ多いことを示しているのかもしれません。

公共機関に目を向けると、確かにJIS X 8341-3が公示され、みんなの公共サイト運用モデルが完成し、一般企業と比べるとWebアクセシビリティへの取り組みは着実に前進しつつあると思います。しかしそのプロセスにおいて、JISの正しい理解に基づいた業務委託や業者選定がなされているかというと、必ずしもそうとは思えない状況も(残念ながら)散見されるようです。もし仮に誤解に基づく受発注がなされれば、本来JISに期待された効果が発揮されることなく取り組みは形骸化し、税金の無駄遣いとなる恐れすらあります。

果たして、自分が身を置くWeb業界はどうか。本来、率先してアクセシビリティ向上の旗を振り、企業や公共機関向けに関連サービスを積極的に提供すべきところが、そういう空気ではなくなっているように思います。単にHTML5やレスポンシブWebデザインといった「旬な」テーマの陰に隠れてそう映っているならまだしも、決してそうではない印象です。インターネット人口は益々増加しつつも高齢化し、またWebへのアクセスに用いられるデバイスは多様化し続け、つまりアクセシビリティが一層重要となってきているにも関わらず......。

以上の現状認識が、願わくば僕個人の独りよがりで、見当違いも甚だしい「誤った」認識であって欲しい。しかし、自分の観測範囲に限っていえば、百歩譲って「当たらずとも遠からず」だと思っています。それゆえ、WAICという組織の活動を通じ、「正しい」現状認識と、それを踏まえた改善に向け、微力ながら取り組もうと考えています。その想いは、一年ほど前に「Webアクセシビリティ」のリブランディングという記事を書くより前から抱いて来たこと(iPhone 4SのSiriがそのリブランディングのきっかけとなるとの予想は、あっさり外れてしまったけれど)。そういうわけで、作業部会2よりも作業部会1のほうが、自分には相応しいかなと思っている次第です。

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