スキル向上のための HTML5 テクニカルレビュー
著
尊敬してやまない浅野さんがHTML5についての書籍をお書きになったというので、『スキル向上のための HTML5 テクニカルレビュー』を読了(だいぶ前に読み終えていたのですが、例によって覚え書きするのが遅れました)。題名からして巷に溢れる(謎)HTML5関連書籍とは一線を画していると思うのですが、読んでみて実際にそういう印象を受けました。確かにHTML5についての本ではあるのですが、どちらかというとよりメタな視点からHTML5を論じたというか、HTML5を中心に据えつつも総じて今後のWebの可能性について論じた本、と映りました。
とはいえ、一色さんが序文に書かれたビジネスパーソンに向けて企画
というのは、ちょっと無理があったように思います。「ビジネスパーソン」の定義にもよりますが、2〜4章は完全にWeb技術に通じた層向けの内容であって、ビジネスパーソンが読んでもあまり理解されない気が。少なくとも、技術的な意味での掘り下げ度合いが章によってバラツキのある印象を受けたのは事実で、そこは本書で最も残念に思った点。加えて構成に関して注文をつけるなら、序文に続くカラーページは不要ではないかなぁ......いきなり各章からの引用を並べられても、見出しにある「HTML5がもたらす新しいWebの世界」としてのまとまりは感じられず、むしろバラバラ感しか受けなかったもの。
そんな感じで、2〜4章はやや技術的に深堀りし過ぎた感があるのですけど、1、5〜7章については読み物として普通に面白かったなと。浅野さんが担当された5〜6章においてはなんといっても以下のくだり、もとい喝破は痛快で、ダメSEO業者(何)はもちろん、すべてのWeb制作者に読んでいただきたい感じ:
悪質な業者やテクニックときっぱり縁を切り、前述したようなスパムマークアップをウェブの世界からできるだけ排除するには、ウェブ業界全体が標準仕様の価値を尊重し、その本来の意義を損なう行為を見逃さないように、より自浄能力を高めながら進歩していく必要があるだろう。ウェブ標準仕様とは単なる技術的な決まりごとではなく、ウェブの向かうべき方向を示す羅針盤のような役割も果たせるものなのだ。
ほか、気になったところなどを以下に列記しておきます。
- p.6の「Javascript」はほかと合わせて「JavaScript」と表記すべき。
- p.12の「仕様書への巨大化」は「仕様書の巨大化」では?
- p.14の「一般的にウェブサイトのセマンティクス強化の恩恵を最も受けた事例というのはRSS」の意味がわかりませんでした。
- p.18で「駆除」という言葉を使われているところで違和感。「駆除」って害を与えるものに対して使う言葉であって、「Office類似製品=少数派」がそういう存在とは思えません。排除、の誤記でしょうか?
- p.56の「CSS3で場合は」は「CSS3の場合は」の誤記と思われます。
- p.66の「webkit」は「WebKit」と表記すべきかなと思いました
- p.77の「Android OS2.3以上Flashには対応しており」は、「以上」と「Flash」のあいだに「の」が抜けているのと、Adobeがモバイル向けFlash Playerの開発を中止するという点に触れていなかったのが残念。
- p.86らへんの「ドキュメントサービス」「アプリケーションサービス」にやや違和感。なぜ「サービス」という語を付けているのでしょうか。単に「ドキュメント」「アプリケーション」としたほうが通じる気がします。
- p.115らへんのリストをみると、transformやtransitionプロパティが-webkit-接頭辞をもったものしか書かれておらず、不安に思います(そこだけコピペして使う人が量産される可能性を考えると)。
- p.237で登場する「トーラスループ」という言葉、初耳でした。自分の不勉強を全力で棚にあげつつ、できれば注釈が欲しかったです!
- p.252の「マークアップは、ビジュアル的な表現のみならず、セマンティクス的な表現が重要となった」で盛大にずっこけました(心の中で)。深見さんには申し訳ないのですが、マークアップに対する見識に疑問を抱きました......。
- p.257で浅野さんが『「Designing UX」ではなく「Designing for UX」を合い言葉に」と書かれているのは、本質的にUXをデザインすることは不可能である(UIはデザインできるけど)、ということを意図されているのでしょうか。そこは別途、確認させていただきたく。