複雑系の経営
田坂広志先生の著作で、だいぶ前に読み終えていたけど覚え書きはしていなかったなかから、『複雑系の経営―「複雑系の知」から経営者への七つのメッセージ』より、いくつか引用。
「経営」とは、企業活動を、個々の専門分野に分けることなく、その不可分な全体を一つの「複雑系」として「実践」する営みに他ならない。
おそらく、経営を上記のような定義で言い切る方は、先生をおいて他にいらっしゃらないだろうな、という類の清々しさを感じる一文。
宇宙、地球、自然、社会、市場、企業、などは、本来、「複雑化すると新しい性質を獲得する」という特性を持つため、「分析」という手法によって、それを「分割」した瞬間に、獲得された「新しい性質」が見失われてしまうのである。
対象が何であれ、それを分けて捉えたり考えるというのは、わかりやすさと引き換えにもっと大切なものを失っていたんだなーと。要素還元主義、二元論、二項対立......いずれも便利だし実際に活用もしてきたいっぽう、頼りすぎていた傾向を大いに反省しないといけない。
「情報共有」ではない、「情報共鳴」を生み出せ。
この、共有より共鳴、というのは田坂先生の他の著書でも目にしていたような。言うは易し、って感じですかね......組織のなかで、共有だけなら機械的に簡単にできるけれども、共鳴を生み出すとなると一筋縄ではいかない。
「創発」とは、正確に言えば、「ボトムアップ」的なプロセスと「トップダウン」的なプロセスが同時に生じる「双方向的」なプロセスである。
ガイドラインの策定や浸透に関する仕事をしていたときは特に、このボトムアップとトップダウンの両方が不可欠ということを身をもって感じていたけれど、それがまさか「創発」と紐づいていたとはね。
インターオペラビリティを実現した技術システムの具体例が、他ならぬ、「インターネット」である。
インターオペラビリティ、私はWeb業界に入ってから学んだような単語だけれど、まさにですね。先生はおそらく、昨今のブラウザベンダーを中心とした活動のInteropをご存知ないと思うけれど......2014年の本書の出版時点で、Webにおける相互運用性の価値を深く認識されていたであろうことに感銘。
率直に述べよう。すべては「一回限り」なのである。「繰り返し」など無い。特に、歴史、政治、経済、社会、市場、企業においては、「法則」と呼べるものは無い。
王道、と呼べるものならありそうですけど、それとて単に法則の存在を信じたいがために編み出された存在かもしれませんね。
そもそも、時代の最先端を走っているのは「経営」であり、「現代科学」は、その歩みを遅れて追いかけているに過ぎない。
うーん、この言い切りもすごい。冒頭で引用した、経営とは何かの定義と同じくらいの、清々しさ。