改正障害者差別解消法とWebアクセシビリティをめぐる解釈
著
私はGoogle アラートに「アクセシビリティ」とか「JIS X 8341-3」みたいな言葉を登録していて、Googleの検索対象にそれらを含んだコンテンツが新たに登録されるのをウォッチしているのですが、またしても改正障害者差別解消法に関して間違った解釈が掲載されているのを見つけてしまいました。あえて掲載元にリンクはしませんが、一部を引用します:
2021年の障害者差別解消法の改正により、2024年4月1日から民間事業者の合理的配慮が義務化されます。ウェブサイトの場合では「JIS X 8341-3:2016」という規格に準拠したウェブサイトを作り、ウェブアクセシビリティを確保することが義務化されます。
最初の文は、何ら問題なく、正しい内容です。問題はそのあとで......改正法のどこをどう読めば、JIS規格に準拠したWebサイトを作ることが義務化されるというのでしょう? 自ら改正法を読んだり、その解釈について学ぶことなく、「合理的配慮」を誤解したまま適当なことを書いているように感じられるのは、私だけでしょうか。
対象分野の広さゆえ抽象度が高く、特定の分野について具体的に何をどうしろなどと書いてある法律ではありませんから、もとより誤解の生まれる余地は少なからずあると思います。その点は、内閣府が広報をもっと頑張って欲しいとも思いますが、それにしてもWebサイトでJIS準拠が義務化とは、誤解が過ぎると感じます。かくいう自分も一時期、理解が足らず誤解をしていた部分があるのですが、現在の私の解釈は以下のとおりです:
- 情報アクセシビリティの確保は、環境の整備に位置付けられ、努力義務として求められている
- 情報アクセシビリティに含まれるWebアクセシビリティについても同様であり、改正法施行前の現時点においても努力義務として求められている
- 改正法の施行によって、事業者に対し(改正前の努力義務から)法的義務化されるのは、合理的配慮の提供
- Webアクセシビリティの不足を理由に合理的配慮が求められた場合、改定された基本方針にある「合理的配慮の提供と環境の整備の関係に係る一例」で例示されているように、配慮の内容はWebサイトの改修に限らない
- 合理的配慮の提供が法的義務化されることで、(環境の整備は改正法の施行後も努力義務であるものの)事業者がWebアクセシビリティに取り組む意義や必要性は高まる
- 常日頃から取り組み、アクセシビリティ品質を一定以上に維持することで、障害者の方から個別に合理的配慮の提供を求められる可能性を下げることが期待できる
- Webアクセシビリティに取り組むうえで、JIS X 8341-3への準拠は必須ではない
- 公的機関については、みんなの公共サイト運用ガイドラインにより、JIS規格に基づく取り組みが求められているものの、事業者についてはその限りではない
改めて上記をまとめるにあたり関連情報を読み漁っていたところ、ウェブアクセシビリティとは? 分かりやすくゼロから解説! | 政府広報オンラインの末尾にあるコラムの以下の記述が気になりました。
合理的配慮を的確に行うため、環境の整備が努力義務となっており、ウェブサイトの場合ではJIS X 8341-3:2016に準拠したウェブサイトを作り、ウェブアクセシビリティを確保することがこれに当たります。
JIS規格に準拠したWebサイト作りが環境の整備に該当するのは間違いありませんが、JIS準拠が唯一の方法ではないと私は理解しています。公的機関ではなく事業者であれば、勧告されたばかりのWCAG 2.2を活用しても構いませんし、なんなら独自のガイドラインを定めそれに基づきWebアクセシビリティを向上させても良いでしょう。本記事の冒頭で引用した間違った解釈は、ひょっとすると当該コラムを参考にして書かれたかもしれないと思い、政府広報オンラインには意見を送っておきました。
最後に......バーンワークス株式会社が先日掲載したコラム「アクセシビリティオーバーレイに対する弊社の見解」にあった以下のくだりには、深く共感を覚えました。
国内における「障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律(所謂「障害者差別解消法」)」を根拠に、アクセシビリティ対応がまるで義務であるかのように不安を煽り、アクセシビリティオーバーレイの導入を含む、アクセシビリティ関連サービスを売り込むようなマーケティング手法に対しては明確に否定的な立場ですし、異議を唱えます。