遭難からあなたを守る12の思考
著
発売前から気になっていた『ヤマケイ新書 遭難からあなたを守る12の思考』を、息抜きに読み始めて一気に読了。頻度はともかく毎年のように山、それも遭難が発生している山を歩きに出かけているし、それで少なからず家族には心配をかけている自覚があるのですけど、改めてリスク管理の良い勉強になりました。
リスクマネジメントの国際規格であるISO31000(リスクマネジメント規格活用検討会・編著、2010)では、リスクは損害ではなく、「目的に対する不確かさの影響」と定義されています。
これは大学院の授業でも学んだ内容と一致するところ。不確かさというのがポイントであり、その影響についてはネガティブなものばかりではなく、ポジティブなものも含むのがリスク。ただ、山に入るとなると、基本的にはネガティブなほうのリスクを気にしなければなりません。
基本的なリスク源は、地面・大気(天候等)・登山者・他の生物の4種類しかありません。
たった4種類しかない、とか思うとだいぶ気が軽くなりますが、しかしそこからブレイクダウンした先には多種多様なリスク源があるのよね。これまでの経験上、4カテゴリの中で最も危ない目に遭ったことがあるのは地面。濡れていたり雪が残っていると、転倒が怖くてね......足の置き場所を間違えただけで最悪死ぬっていう。
リスクを高める働きをする要因をリスク累加要因と呼びます。
リスク累加要因というフレーズが新鮮。何せググっても1件もヒットしません。累加という言葉自体は、ちゃんと辞書を引けば「かさね加えていくこと。次第にふえていくこと。」という定義が出てきますが。リスク自体は潜在的ですが、リスク源の多くやリスク累加要因の多くは感知可能
という説明と合わせて、覚えておきたい。
リスクによりよく向き合うには、リスクコミュニケーション、事前のリスクマネジメント(狭義のリスクマネジメント)、現場でのリスクコントロール、そしてダメージコントロールの4フェーズでの対応を意識することが肝心です。
ダメージコントロールという言葉は、リメイク版の宇宙戦艦ヤマトがきっかけで知ったけれど、この4分類もわかりやすい。時間軸で言えば登山前、登山中、登山後の全体をカバーしているともいえるかな。そしてリスクコミュニケーションもリスクマネジメントも、大学院の授業でそれなりに理解を深めていたので、わかりみが深かったです。
登山者は、安全機能が外化されていない自然環境を経験しています。その中に潜むリスクに常に意識を向け、またそれをどう制御していくかを、実践の中で身につける機会に接しています。これが、VUCA性に満ちた現代社会での生活でリスクに対応するだけでなく、時にリスク対応を楽しみながら、強く生きていくことにもつながります。
いつからか、山歩きが危機管理能力の鍛錬に打ってつけだと(後付けっぽく笑)思うようになったけれど、上記には強く賛同するし、また心強いなって思います。特にソロ歩きでは頼れる相手が自分しかいないから余計に、良い意味で神経が鋭敏になるっていうか......上記の引用箇所より前にオンサイトでのリスクマネジメントは、適度なリスク状態を維持することを通して、フロー状態を維持し、リスクを楽しむことにもつながる
ともあったけど、そういうのがまた本当に楽しいのよね。
ちなみに「あとがき」にYUCAという言葉に出合うきっかけを与えれてくれた栗田智絵さん
という記載があるのだけど、YUCAって絶対にVUCAの誤記ですよね......。