宇宙人類学の挑戦―人類の未来を問う
著
宇宙開発広報についての研究の一環で読了した『宇宙人類学の挑戦―人類の未来を問う』について。いやーこれむちゃくちゃ面白かったです。一箇所、p.79に脱字(他の分野か見れば
のところ、「ら」が抜けている)を発見......したのはさておき、
一〇万年ほど前に出アフリカを果たして以来、地球上に拡がってゆくなかで言語と社会・文化の多様性を花開かせてきた人類は、たとえ地球上で平等な幸福を実現することができたとしても、グローバリゼーションのなかで多様性を失い、あるいは熱的平衡の死を迎えてしまうのではないだろうか。
まずグローバリゼーションと熱的平衡、この2つの単語を一文の中で使っていることにちょっと感動してしまったという。小論文だかでこれらの語を含む作文を命じられても自分には多分無理だわ......すごい。同時にグローバリゼーションと人類の宇宙進出、両者をつなぐ文脈に気づきを得たのが、上記の引用箇所に限らず本書を読んで良かったと思う理由。
日本を含む一四カ国・地域の宇宙機関が二〇〇七年に発表した文書「グローバルな探査戦略(Global Exploration Strategy; GES)」には、宇宙探査の目的は"Where did we come from? What is our place in the universe? What is our destiny?"の三つの問いに答えることだと書いてある。
うーむ、これは全く知らなかった、盲点。幸い原文はJAXA | The Global Exploration Strategy: The Framework for Coordinationで読めるし、日本語訳もJAXA|国際宇宙探査戦略にかかる「グローバル探査戦略:国際協働のための共通の認識」文書の公開についてで読めます。3つの問いだけ読むと、社会課題解決とはだいぶ距離を感じる目的に感じたけど、読み進めるとそれなりに色々書いてあります(当然だ)。
宇宙開発技術はグローバル化を支え、これを促進しているのであり、このことによって人々の生活世界は拡大するとともに、拡大した生活世界がさらなるグローバル化を要請し、これを支える宇宙開発技術を求めると考えられる。
上記もまた、グローバリゼーションと人類の宇宙進出に関する記述なのだけど、双方が相互補完的な位置付けでもあるというのは、とても大事な指摘に思えます。ひとたび手にした地球の出のような視座を手放すことなど最早できない、ということをも意味するかもしれない。
分析は、宇宙に暮らす彼らの価値観が、特定の地域や国家の差異を超えた、より普遍的なレベルへと移行する傾向を示唆している。
上記は、半年以上の宇宙長期滞在者を対象とした調査に関するくだりなのですが、実に興味深い。安易にこれをもって宇宙進出が世界平和に通じるなんて夢想するほど楽天的ではないものの(もっと言えばガンダム世界のニュータイプ論を信じたくなるわけでもない笑)、しかしその可能性の一端は既に明らかにされていたわけで。