2045年問題
著
松田卓也著『2045年問題 コンピュータが人類を超える日』について知ったのは、確か宇宙飛行士の山崎直子さんがFacebookのほうで言及されていたからだったと思いますが、ちょっと記憶はあやふや。しかし読んでみたところ、なるほど面白かったし、良くも悪くも未来を考える良い材料となりました。
2045年にコンピュータが人類全体の能力をはるかに超え、それ以降の歴史の進歩を予測できなくなるという説があります。この時点を「技術的特異点」と呼びます。技術的特異点がもたらすであろう問題を「2045年問題」あるいは「特異点問題」と呼ぶことにします。
という書き出しで始まる本書には、これまであまり見聞きすることの無かった、人工知能とその関連分野における最新動向や、そこから推測(ないし「懸念」)される近未来の世界が、素人にも比較的わかりやすい文体で紹介されています。どこかSFのなかだけのように思っていた世界が、ごく近い将来に現実のものとなるかもしれない。それはある意味では恐怖であり、また僥倖でもある。まさか自分が生きているかもしれないうちに、そんな時代が訪れるかもしれないだなんて......インターネットの登場とその普及期という「いま」を生きているだけでも、自分は十分すぎるほど幸運だと思っていたけど。へぇ、と思ったのが「口パクで入力」という節。
また、NASAでは、喉の筋肉を察知する技術が研究されています。ものをいう時、口が動きますが、実際に声を出さなくても、発しようとすることで筋肉が動きます。つまり口パクの筋肉の動きをとらえるわけです。この研究がうまくいけば、周囲がうるさいところでは使えず、周りに自分の考えが漏れてしまうという、いまの音声入力が抱えるふたつの問題がいっぺんに解決されます。
コンピュータの力を借りて、誰もが読唇術を使えるようになってしまえば、その「口パクで入力」なんてのもおいそれとはできなくなるはずですが......しかしすごい。『攻殻機動隊』で描かれたような、よりダイレクトな脳とコンピュータ/インターネットの接続がやはり理想的ではあるけど、それとて既に現実のものとなりつつある、と言っても過言ではないという。仮にそれが現実化したとき、果たしてこの世界はどうなってしまうのか......本書のなかでは、芸術すら機械化されつつある、というようなことも書かれていますが。あと、『成長の限界』というシミュレーションの存在についてはだいぶ昔から知っていたけれど、いちどちゃんと読んでみたほうが良いかもしれないと思いました。あまり悲観的になりたくもないですが。