シンポジウム「宇宙にひろがる人類文明の未来」2日目
著
1日目の続き、2/2の覚え書きです。1日目の記事で言及し忘れましたが、今年のシンポジウム「宇宙にひろがる人類文明の未来」ではスライド(PDFないしPPT形式)が講演に先立って公開されていたのが、非常に有難かったです。Ustreamで中継を視聴する方がスライドの内容をしっかり確認できるというメリットはもちろん、会場で参加する立場であっても、休憩時間に予習したり講演終了後すぐに見返すなんてことができるのは助かります。来年度以降も本シンポジウムが続くなら、是非とも継続していただきたいですね。
『宇宙,教育』というキーワードのコンテンツ
京都市立洛陽工業高校の教師の方による講演。その後に続く同校の生徒、市川さんの発表のイントロダクション的な内容でした。宇宙開発を通じ、人類にとって宇宙が身近な存在になってきた経緯を、著名人の言葉を引用しつつ振り返りながら、最終的に宇宙がどれだけ教育的に重要なコンテンツかを語るという。ゴーギャンの『われわれはどこから来たのか われわれは何者か われわれはどこへ行くのか』というタイトル、割とよく引き合いに出される印象......ある意味、それだけ宇宙開発にとって本質的なことを言い表しているということかな。
工業高校生がロケットをぶっ放して宇宙について考えてみた
ハイパーステージ、というプログラムを自分は初めて知りました。工業高校では8割が就職するそうなのですけど、残り2割のそのまた一部に、ハイパーステージへの進学が含まれるそうです。ハイブリッドロケットの製作を通じて課題解決能力を学んだ、とのことですけど、1日目の秋山さんのお話を聞いての感想とも共通するのは、やはり少しでも若いうちにプロジェクトマネジメントを学ぶべきだなぁということ。あとは市川さん、良い意味で楽天的な発想の持ち主というか、生きてるうちに自分も宇宙に行けるかも?って想いをストレートに抱いている感じが若者らしくて良かったですね(謎
日本のロケットの近未来
探査機ボイジャーを作りたくて宇宙開発の道に進んだという、山川氏の講演。イプシロンロケットの打上げが、内之浦から打上げられた?500機目だったというのは初耳。内訳的には400機近くが小型の観測ロケットだそうですが。お話的には、いかにしてロケットの打上げをコストダウンさせるか、あるいは山川氏が生きているあいだにロケットをいかに「電車感覚」に近づけるか、というのが中心。量産効果によるコストダウンについてはあまり触れられず、技術革新という切り口が主だったような。将来的なコンセプトのなかで、H-IIA/BにSRBを6本付けるというバージョンが出て来て個人的にアツかったな。
この宇宙に宇宙文明はいくつあるのだろうか?
ドレイク方程式の解説というか、近年の研究成果をもとに、個々のパラメータにより正確であろう数値を入れてみるという試み。そもそも、これに代わる方程式が新たに提案されたりはしてないのだろうか?とは思ったけれど。さておき、銀河系だけで100の文明が存在している可能性があり、それらが一様に分布していると仮定すると1万光年間隔。またこれを宇宙全体(130億光年先)まで拡大すると、実に1兆もの文明が存在し得る......数字だけ聞いてもピンとは来ないですねw 最後の宇宙文明の存続時間を逆算する、という発想は面白かったけれど、それを知るのは微妙に怖いというか。あと、恒星の多様性が生み出す惑星の多様性(ホットジュピター、スーパーアース)のあたりは、もう少し詳しく聞きたかいテーマかも。
放射線照射による蛋白質への影響
ほとんど話についていけなかった......2日間通じ、自分にとって一番難解なセッションがこれ。専門性の高いお話をよどみ無くノンストップで時間通りに終えられた藤井先生には、ちょっと圧倒されてしまった(謎)。しかし、以前から名前だけは耳にしたことのある「白内障」という病気について、多少なりとも理解を深めることができたのは良かったです。80才で罹患率ほぼ100%、放っておけば失明という恐ろしい(けれど手術で人工眼内レンズに置き換えれば失明は避けられる)病気が白内障。一言でいえば水晶体が濁るのですが、蛋白質の変性に伴う不溶性蛋白質の増加が、混濁を増加させるらしい。目の水晶体は常に外界に晒されていて、それだけ放射線への感受性が高い。そしてその蛋白質の変性に放射線が絡んでおり、宇宙滞在を経験した宇宙飛行士を対象とした調査の結果、宇宙放射線との相関が認められているとのこと。
心は妖怪
タイトルからだけでは、どんなお話かまったく見当がつかなかったのですが、いや実に興味深かったですね。スライドのデザインも独特で、縦書き表記にしろダンゴムシのイラストにしろ、味わい深い。まず心の特徴を「何とはわからないが、確かにあるもの」とし、それを隠れた活動部位として定義。隠れている限り科学的な解明は不可能と思えるものの、意図的に未知の状況をつくることで、予想外の行動(「切り札」)として隠れた活動部位が表現されるので、これを捉えることで研究が可能となるらしい。ダンゴムシの行動観察のビデオをいくつか拝見したのですけど、面白かったなぁ。未知の状況に対し、ダンゴムシ「すら」予想外の行動で切り抜ける、というのは知りませんでした。講演タイトルにもつながるのだけど、森山先生の「化ける、憑依する、という表現を科学で使ってもいいだろう」という視点、新鮮でした。
未来の二つの顔:宇宙が拓く人類の生物=文化多様性への扉
午後なのに「おはようございます」というご挨拶から始まった講演。地球の「青いビー玉」&「アースライズ」の2枚の写真を取り上げ、これを人類史上最大の事件、アポロ計画最大の成果と位置づけました。それから40年、限られた舞台でどこまで奪い合い・殺し合えばよいのか?との閉塞感が漂うなか、人類全体でこれからどこへ向かうかを決めるべき時......宇宙進出が進めば、いずれ人類は究極的に多様化すると力説されたけれど、しかし途中紹介されたイヌイットの生活の二重性(グローバル化を受けた部分と伝統的な部分)に思いを巡らせると、経済合理性によってグローバル化という画一化が勝る可能性も否めません。ゆえに、必ずしも多様化一辺倒とは言い切れないのでは?と考え質疑応答の時間に質問させていただきました。回答としては、コストをかけてでも、一方を残すことで他方が機能しなくなったときの生存可能性は上がるということで、つまり社会的な意味も含めれば、多様性の確保というのは生命が本質的に生き延びるために必要な知恵かもしれないなぁ......と感じた次第。
パネルディスカッションでは、さまざまな話題に触れられましたけど、1日目に話に出た「日常生活とは疎遠な研究活動の意義、社会的合理性をどこに見出すべきか」みたいなテーマと関連して、経済合理性にどれだけ抗って多様性を担保し続けられるかが、人類の生存の維持可能性と宇宙進出にとって本質的な命題であるように感じました。バランスが難しいけれど、合理性というしがらみを部分的にでも断ち切って、「挑戦」をすることでしか新たな可能性の獲得、新たな活動領域=宇宙への進出というのは難しいだろうな、と。アポロ計画以後の失速において、常に人類が試されているように感じるのは、そういうところかな。それが、2日間にわたる自分のシンポジウムへの参加の個人的総括。