アクセシビリティハンドブック
著
O'Reilly Japanの『アクセシビリティハンドブック』は、Webアクセシビリティをテーマとした書籍としては割と最近になって発行されたもの。CSUN 2013に参加して日本に帰ってくる直前、飛行機のなかで読もうとNexus 7上で購入したのですが、米国のではなく日本のEbook Storeで買い物をしたのは初めて。mobi形式のをKindleアプリで読むつもりでいて、そもそもダウンロードしてからどうするんだ?と思ったら、Solid Explorerでkindleディレクトリにファイルを移すだけでOKでした。
でまぁ肝心の中身についてですが、悪い意味で裏切られてしまったというか、きわめて残念というか......本を買った後になって「金返せ」みたいなことは滅多に思わないほうですけど、正直それに近い感情を抱きました。冒頭、NASAで契約社員として働いていたとき、リハビリテーション法508条に準拠したサイトを作らなければ本番で使用できなくなる、という状況に陥った
というくだりを読んだ時点では、NASAという単語に反応して一方的に著者に親近感を抱いていたのに。原著は買っていないので、そもそも原文に問題あるのか、翻訳が良くないのか、両方かはよくわからない。けれど、翻訳したのはWebの技術(やWebアクセシビリティ)に詳しくない人に違いない、と自分は強く感じました。以下、特に気になったところ:
インターネットは視覚媒体だ。
......は?(真顔CSSを使ったことがあれば、視認性と表示オプションについての大まかな知識はあるはず
って......もしかして visibility というプロパティ名を「視認性」と日本語に訳してしまってませんか?ヘッダは決して省略しないことだ。ヘッダの序列も重要だ。<h1>の次は<h3>ではなく、<h2>を使う。
......まぁ省略しないにこしたことはないけれど、決して省略しないというのはやや言い過ぎな気が。その後に出てくるテーブルのHTMLには必ず、scope属性を指定する
についても同様。- いまどき <a name="pagenav"></a> とか <a name="content"></a> みたいな要素内容のないa要素を例に持ち出すというのはおかしいと思われ。
- 画像を使って見出しを表現するマークアップの例が<h1 id="welcome">Welcome</h1>、つまり画像置換。CSSが有効かつ画像非表示な環境でアクセシビリティ上の問題を起こすようなスタイルシートを例に出しており、ちょっとあり得ない感じ。
- 表1-2に「アクセスキーに対応しているブラウザの一覧」があって、そこでWindows版のInternet Explorerは「8+」と書かれている。accesskey属性にはもっと前のバージョンから対応していたはずで、いくらなんでもバージョン8以上なんて話は聞いたことが無い。
見逃してもたいして困らない(自動的に更新されるツイッターウィジットのような)些少な場合もある
とあるけれど、何が価値ある重要な情報で、何がそうでないかは利用者の決めること。Twitterのつぶやきが常に些少な類いの情報であるかの決めつけはいかがなものか。ステータス属性
って出てきて、そんな属性あったっけ?と思い例1-20のソースをみると、どうやら role="status" のことらしい。すると今度はnavigation属性は、ナビゲーションの目印となるものを設定するための属性だ
なんて書いてある。例1-22にあるソースを読んで、やっぱり role="navigation" を意図していることに気づく。その後もtreeやtreegrid属性
、menuやmenubar属性
、timer属性
なんて表現が続くけれど、これらはいずれもWAI-ARIAで用意されたrole属性値の話であり、どう考えても誤解を招く。- 何のギャグかと。Webアクセシビリティの本で、まさか
altタグ
なんて表記を目にするだなんて。 column:content 形式の表を読み上げる。
の意味がわからず、要原文確認。本書で「弱視のユーザー」「弱視の人」とは、「スクリーンリーダーは使わないが、モニターの設定を変更しなければコンピュータを使えないユーザー」と定義する
というのは、まぁオレオレ定義としてはアリかもしれませんけど、微妙。少なくとも、弱視者にスクリーンリーダーは存在しないかの誤解を与えかねない。Webサイトの物理的なアクセシビリティを上げる、というのはつまり、Webサイトの実際の使い心地をどうするか、という問題だ。
は、全般的に意味不明。その後で物理的アクセシビリティとは、従来行っていたコンピュータへの入力方法を、なんらかの事情によって行えなくなったユーザーを想定したものだ。
とあるので、物理的云々というのは肢体不自由に関連する内容だと推測できたけれど、しかしよくわからない。身体障害のあるユーザーにとって、次のようなものがしばしば問題となる。
のなかにマウスを必要とするインターフェース。
とかキーボードを必要とするインターフェース。
ってありますが、何もマウスやキーボードを必要とすること自体がアクセシビリティ的によろしくないという話ではないでしょうに。問題は、特定の入力装置にのみ依存していて、代替の入力方法が利用できないケースでしょう?通常、動作障害があるユーザーが対応できるアイコンのサイズは13x13ピクセルだと言われている。
は初耳だったのですが、出典を明らかにして欲しい。outlineはCSSのほかの部分で上書きされるから問題ないと、デザイナーは言い訳することが多い。
は、意味不明。ほかの部分ってどこよ(怒