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青森Webアクセシビリティフォーラムのごく個人的フォローアップ

先日の青森Webアクセシビリティフォーラムでは、最後のパネルディスカッションに登壇させていただきました。そのなかでは、あらかじめ参加者の方からいただいた質問や、設定されたテーマについて語らせていただいたのですけど、時間の都合もあって、意図を十分に伝えられたか少し不安に思うところがありました。ですので、全ての内容を網羅するつもりはありませんが、当日の発言内容を含め、以下に考えを書き下すかたちで、個人的なフォローアップをしたいと思います(主催者であるエイチピースタイリングの高森さんには許可をいただきました)。

アクセシビリティに携わることになったきっかけ

今の会社には2004年から参加していますが、入社してまず取り組んだのが、Web標準をより良く活用するための「旗ふり役」でした。当時はまだ、俗にいうフルCSSレイアウトが今ほど一般的ではなく、テーブルレイアウトが幅を利かせていた時代。マークアップ言語やスタイルシートに興味があったので(今もですが)、旗ふり役を買ってでたのです。Web標準に準拠することで期待されるメリットにはさまざまありますが、自分のなかで最も腑に落ちたのが、アクセシビリティを確保し向上させる手段としてのWeb標準準拠です。そんな経緯があり、Web標準の活用が常識化した昨今では、(旗の絵柄が少し変わって)アクセシビリティの旗ふり役を担っているのかなと思います。

アクセシビリティの改善には、ホームページのリニューアルが手っ取り早いと思うのですが、それまでの間にもできるアクセシビリティの改善方法を教えていただければと思います。

「手っ取り早い」の意味次第ではありますが、自分はあまりリニューアルが手っ取り早いとは思いません。ワークフローの全体的な見直しを伴うような、大鉈を振るうレベルのアクセシビリティ改善であれば、リニューアルというイベントを利用するのは良いと思います。たとえば、リニューアル後の運用を見据えて、各担当者向けの教育に取り組むとかですね。しかしもっと手っ取り早い、明日からでも取り組めることはもっと他にあって、それこそ「画像の代替テキストをちゃんと書く」でも良いと思います(それだけで満足され続けても困りますが)。いちどWCAG 2.0の和訳を読んで、手っ取り早く取り組めそうなことを探してみていただければと思います。

アクセシビリティーに配慮されたサイトを構築することは、本当にお金がかかるものなのでしょうか?

答えはYesであり、Noでもあると思います。どんな高度な技術も、登場した当初こそ高く評価され、対価も十分に支払われるものですが、それが広く普及しコモディティ化していく過程において、かかるコストや市場価値は下がるものだと思います。アクセシビリティの確保も同様の側面があって、できて当たり前だと誰もが思うレベルの確保(例:画像の代替テキストをちゃんと書く)にお金はさほどかかりませんし、それをいちいち顧客に請求するWebデザイナーもいないでしょう。一方、高度な機能を実現するスクリプトやマルチメディアコンテンツをアクセシブルにしようと思ったら、設計から実装、検証に至るまで、コストはある程度かかるものだと思います(それを請求書でどう表現するかは別として)。かかる、かからないの線引きは、会社の技術力によって変わるでしょうし、制作に用いるツールの進化と共に変わっていくものだと思います。

制作者の立場から感じる課題

大きくは4点あると思います。

第一に、ブラウザベンダーや支援技術ベンダーとの協同。制作者としては、できるだけWebコンテンツをアクセシブルにすべく頑張るわけですけど、コンテンツだけでアクセシビリティが確保できるわけではありません。情報の発信者から受信者に至るまでのあいだに介在するすべてがうまく連携・機能して初めてアクセシビリティは確保されます。なかでも、直接的に影響しあうところが多分にあるという意味で、ブラウザベンダーや支援技術ベンダーとはもっと密に協同したいところです。仮に「アクセシビリティ確保」という名の野球場があったとして、誰の守備範囲がどこからどこまでか、というあたりをもっと議論したいというか。たとえば文字の拡大縮小ボタン!それが提供する機能とは、果たして制作者(コンテンツ)の守備範囲なのか、それともブラウザベンダーの守備範囲なのか?お互いがボールを取りに行ってお見合いするならまだしも、ボールが飛んで来ても誰も取りに行こうとしないゾーンができないようにしたいですし、互いの守備範囲の重複は最小化しつつも、常にすべてのユーザーをサポートする状態が維持できたらいいなと思います。

第二に、教育。アクセシブルな実装ができて初めてWebコンテンツが本来備えるべき性能が期待できるという意味では、立場によって知っておくべき内容やレベルは違えど、Webサイトの制作や運営に携わるすべての人(発注者、受注者の別を問わず)が「アクセシビリティとは何か」「なぜアクセシビリティが必要なのか」「どうすればアクセシビリティを確保できるのか」等について学ぶべきです。こと制作者にとっては、上述の「アクセシビリティーに配慮されたサイトを構築することは、本当にお金がかかるものなのでしょうか?」に対する答えのなかでも書いた、できて当たり前だと誰もが思うレベルの確保を、(そこまで到達していない前提において)WCAG 2.0 Aレベルにまで底上げするような努力なり教育が必要ではないでしょうか。ちなみに、Webサイトの利用者に対する教育も必要です(それに制作者がどう関わるかは難しいのですけど)。Webブラウザの標準的な機能を使って文字を大きく/小さくするにはどうすれば良いか、というのは端的な例ですが、自身の使うブラウザーなり支援技術の機能をもっと学んで、使いこなしていただきたいと思います。

第三に、企業がWebアクセシビリティを確保するうえでのインセンティブの提示。企業サイトランキングの類において、アクセシビリティが評価項目として含まれていることが、企業にとって積極的にアクセシビリティに取り組むうえでの主たるインセンティブのような時期がありましたが、最近では(そのようなランキングは)あまりお目にかかりません。それに引きずられる格好で、企業サイト担当者のWebアクセシビリティ確保に対するモチベーションが下がっているのではないかと危惧しています。上記の教育ともやや重なってきますが、顧客のWebアクセシビリティに対する見方を変えさせて(=教育をして)、明確なインセンティブを提示すべきだと思うのです(方法論については僕自身まだ研究中ですけど)。高齢者の割合がこれだけ増えて、またWebにアクセスするためのデバイスもこれだけ多様化したいま、Webアクセシビリティを確保しない理由は無いと、まず制作者自身がしっかり意識しなければ始まらないのでしょうけど。

第四に、法整備。何も米国のリハビリテーション法第508条とか障害を持つアメリカ人法の日本版を整備すべきとか、そういうことを言うつもりはありません……その手のことを語れるほど、法律に詳しいわけではありません。ただ何となく、いまのままではWebアクセシビリティが日本社会に根付くことが難しい気がしてならないのです。もちろん、WAICのような組織に参加している手前、根付かせるべく自分にできることは地道に取り組んでいるつもりですけども。とにかく、アクセシビリティを巡る裁判沙汰が増えるようなギスギスした社会を望むわけではないにせよ、その確保をもう一歩踏み込んで強制するための仕組みを作ってしまったほうが良いように感じていて、それがたとえば法整備だったりするのかなと、そう思っています。

文字の拡大縮小ボタンの有り無しについて

第2回「アクセシビリティBAR」秋の文字サイズ変更ボタン祭りのテーマですね。要るか要らないかで言えば、圧倒的に要らない派です。理由はまず、文字の拡大/縮小はブラウザ側で提供されている機能であり、それと重複する機能を提供するのに貴重な画面の一部を割くのは無駄に思える、というのが第一。第二に、その手のボタンが有効な範囲というのが極めて限定的(同じドメイン上のページだったり、あるいは同じページ上の一部だけだったり)で、むしろ利用者のブラウザ本来の機能に関する学習機会を奪う側面がある点。第三には、何の流行かわかりませんが、残念な(ラベルが「大」「中」「小」でわかりにくかったり、そもそも「たった」3段階しか変更できないのは微妙だったり、ちょっとスクロールダウンしただけで隠れて見えなくなるような位置に置かれていたりする)実装が多い点。最後に、フルページズームが標準的になった今となっては、画像化文字も含めて拡大/縮小するかどうかという部分で、利用者に混乱を招きかねない点。

制作者は何をすべき?

先に顧客のWebアクセシビリティに対する見方を変えさせてということを書きましたが、制作者自身も、Webアクセシビリティに対する見方は変えていく必要があると思っています。具体的には、これを制作物の品質の指標として捉え、また利用してはどうか?という提案です。Webコンテンツの品質といってもさまざまにあって、例えばターゲットブラウザすべてて意図した通りに表示・動作することは、一定の品質を満たしていると言えるでしょう。しかし、すべてのWebコンテンツにおいて(それが「Web」コンテンツを名乗るからには)等しく満たすべき品質があるとすれば、それはアクセシビリティだろうと思うのです。WCAG 2.0 Aレベルであれ何であれ、アクセシビリティを一種の品質基準として再定義するなかで、今後その取り組みを一層強化することが、Web業界が社会的により一層認められ、また成熟して行くためにも必要なのではないか、と思っています。

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