「はやぶさ」式思考法
著
「はやぶさ」プロジェクトマネージャーを務めた川口淳一郎教授の著作『「はやぶさ」式思考法』を読了。既に食傷気味なもので、はやぶさ関連書籍を買うことはもう無いだろうと思っていたのですが、林(@payapima)さんのつぶやき経由で本書の発売を知り、その日のうちに書店で手にとって内容をざっと確認のうえ購入した次第。値段も税抜き1,300円と手頃だったしね。もっとも、サブタイトルにある「日本を復活させる24の提言」というのは、ちょっと煽り過ぎのような気がします。そう解釈することもできなくはないけれど、提言と呼ぶには苦しい項のほうが多かったように感じていて。むしろ、素直にまえがきにあるように私が育てられ、また教えられて培った、心にとめた言葉や生き方、そして私自身が、過去の苦い経験や「はやぶさ」プロジェクトを通じて得た、二四のポイント
として読むぶんには、凄くしっくりくるというか。いくつか気になった箇所をいくつかピックアップ:
- 第2章「許認可制は妨げになりうる」で、いちいちミネルバは電波を発するかとか、月より地球寄りの空間ではやぶさが電波を発するかとか、確認するための問い合わせを受けていたってのは驚き。電波絡みってことは問い合わせ主は総務省?よくわからないけど、いかにも役所らしいというかなんというか……。
- 第6章「システムエンジニアリングより親方徒弟制度」より。
なぜ、アメリカでSEPMという考え方が誕生したかと言えば、実務者レベルに大きなバラツキがあるという前提があったから
というのはなるほどという感じ。とはいえ、じゃあSEPMが有効に機能し始めるバラツキの程度はどのあたりにあるのかっていうと、それはそれで見極めが難しい。個人的には、SEPMも親方徒弟制度も両方必要で、その組み合わせ方をプロジェクトや人の育ち具合に応じ変化させることが必要ではないかと。 - 第8章「「ヒラメ」を作らない方法」、おそらく本書ではこの章が一番興味深かったと。なぜなら、勤務先がまさにそのマトリクス型プロジェクトってヤツを複数運用していますからね。その長所・短所ともに書かれている内容は実体験と符号しています。しかし自分の業務に活かせる内容があったかといえば、うーむ。やはり「はやぶさ」のようなプロジェクトとは特性が違いすぎて、なんとも。
- 第18章「駆け引きのできる人間になろう」のなかで、米国ユタ州にカプセルを落下させる計画だった当時、NASAに対し堂々と嘘をついていた旨を書かれているのですが、その背景はさておき、今後の協同の可能性ってところに対して何か悪い影響を及ぼさなければ良いのですけど。この程度の「駆け引き」は宇宙業界では日常茶飯事であり、NASAもその点は重々承知しているというのなら、話は別ですが。関係ないけど、搭載が見送られたJPLのナノローバーを担当していたAlberto(誰)とその昔、富士山に登ったっけ。懐かしい。
- 第24章「何が日本の未来を明るくするか」で非常に気になったのが
JAXAiの収支は、二〇〇四年の開館以来、ずっと赤字でした
とのくだり。その後も読み進めれば、川口教授がJAXAiの価値を金額とは別の尺度でもって評価されているのは自明なのですが、何の数字も示さず「赤字」とだけ記されているのはちょっと納得がいかない。来場者から入館料を徴収していたわけでもあるまいし。
……グダグダな感想ですが、「はやぶさ」式というか、川口教授流のプロジェクトマネジメントをより深く知るという意味では、とても役に立つ一冊だと思います。あとはやはり表紙のインパクトは特筆に値するかも。昨今の宇宙開発広報において、顔が見えることの重要性が喧伝されるようになって久しいですが、本書の表紙に堂々と(はやぶさの模型と共に)映っている川口教授の笑顔を見ると、それだけで本書を手に取ったり買っちゃう人もいるかもしれないな、と。