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新企画は宇宙旅行!

古田靖著『新企画は宇宙旅行!』を読了。JTBに勤務する中村豊幸氏が、かつて同社で宇宙旅行の販売を企画・立案し、それを実現するまでの道のりを追ったノンフィクションです。中村氏のことは存じ上げませんが、本書のなかにはSpace Adventures(以下「SA社」)の日本支社を立ち上げ、自分がかつて同社の弾道飛行に申し込んでいた当時お世話になった横山龍宏氏や、今なお(宇宙旅行に限らず)宇宙業界において幅広くご活躍されている大貫美鈴氏とのやりとりも豊富に紹介されていて、とても興味深い内容でした。ちょっと演出に過ぎるきらいを感じたのと、枝葉末節に入り込んで文脈が途切れて映る部分が時折気になったほかはスイスイ読めたのですが、僕個人としてはp.226にある

ロケットはすでに点火されている。ゆっくりだが、確実に、上昇している。
その火をつけたのは中村豊幸というサラリーマンだった。

というくだりには賛同できなかったですね。本書のなかでも取り上げられているように、日本国内において宇宙旅行をビジネスの対象として真摯に捉え、その市場開拓に着手した最初の人物は横山氏なわけでしょう。であればこそ、上記の文脈で「点火」をしたことで評価されるべきは、中村氏ではなく横山氏ではないでしょうか。もちろん、中村氏のご尽力というのも相当にあっただろうけども、そこはやはりJTBという一定のブランドを既にもったプラットフォームがあってこその側面が大きかったハズ。その点を踏まえるなら、横山氏の貢献は中村氏と同等かそれ以上に評価されて然るべき、と考えます。残念なことに、横山氏についてはp.219〜220にありますが

JTBとの独占販売契約が成立したあと、スペースアドンチャーズ社に解雇されたのである。「大手との独占契約が決まったので、ご苦労さん」というわけだ。ビジネスライクなアメリカ流といえばそれまでだが、横山としては、唖然とする出来事だった。

……という非常に過酷な結末が待ち受けていました。この経緯が公になるのは、本書を通じてが初めてではないかな。当時、僕はこのお話をご本人から直接伺っていたけれども、そうしたビジネスライクに過ぎる体質というのは、僕がSA社の弾道飛行をキャンセルする至った遠因のひとつだったりします。そもそも、僕は本書で初めて知ったのですけど、p.105にある

こうしたやりとりで、スペースアドンチャーズ社は日本国内に2ヵ所の窓口を持っていることが判明した。横山が立ち上げた日本支社とはべつに、名古屋の旅行会社とも販売契約をしていたのである。

って事実だったのでしょうか?そして横山氏はその事実を把握されていたのでしょうか?考え過ぎかもしれないけれど、SA社はJTBのような大手との契約が実現するまでの一種の保険として、一方を他方に対する当て馬として考えていたのではないか、などとつい邪推したくなってしまう。しかし考えれば考えるほど、ビジネスの難しさ/厳しさはもとより、横山氏の不運と不遇が残念に思え、やるせなさを覚えます。そんな一冊でした。

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