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Re: アクセシビリティとユーザビリティにおける違い

アクセシビリティとユーザビリティにおける違いという記事に対し、記事中のどこにも明記されていませんが、文脈的に「Webコンテンツの」アクセシビリティとユーザビリティについての記事と解釈のうえ、異論を唱えたいと思います。

アクセシビリティは心身の機能に問題がある人もネットが使いこなせる環境を実現するもの

冒頭にあるこの見出し、決して間違いとは言えないものの、アクセシビリティがもたらすメリットを矮小化しています。障害当事者にとってメリットがあるのはもちろんですが、そうではない(健常者と呼ばれる部類の)人にとっても、メリットはあります。動画の字幕提供が、聴覚障害者のみならず他の多くの(何かしらの理由で音声を利用できない状況にある)利用者にもメリットがある、というのはその一例です。さまざまな利用者だけでなく、多様な利用状況に対してもコンテンツを使いやすくすることが、アクセシビリティのメリットと考えます。

アクセシビリティというのは、障がい者や高齢者といったような心身の機能に問題がある人であっても、健常者と同じように問題無くインターネットを使いこなせるような環境を実現するのを意味しています。

先述の見出しとほぼ同じ内容が本文中にも出てきますが、やはりアクセシビリティという言葉が指し示す範囲を狭く捉えて(過小評価して)いるように思われます。もっとも、アクセシビリティが障害者や高齢者への対応と同義であるかのイメージが古くからあるのは承知していますし、JIS X 8341-3の規格名称が「高齢者・障害者等配慮設計指針-情報通信における機器,ソフトウェア及びサービス-第3部:ウェブコンテンツ」となっている点も、そういうイメージ作りに一役買ってしまっていると認識していますが......それでも、アクセシビリティは全ての利用者に利便をもたらす品質と、自分は捉えています。

ユーザビリティというのは、そのシステムについての一般ユーザーの使いやすさを意味しています。

文脈的に、「一般ユーザー」の中に「障がい者や高齢者といったような心身の機能に問題がある人」は含まれない、と意図しているように思えますが、著者は障害者や高齢者にユーザビリティは必要ないとお考えなのでしょうか? 障害者や高齢者に対しては、アクセシビリティさえ確保できれば必要十分なのでしょうか? 強く違和感を覚えます。ISO 9241-11にあるユーザビリティの定義、「特定の利用状況において、特定のユーザによって、ある製品が、指定された目標を達成するために用いられる際の、有効さ、効率、ユーザの満足度の度合い」に照らしますと、この後に続く

アクセシビリティでは対象が身体障がい者のような、普通にはコンピュータを使うのが困難な人に対して向けられています。これに対してユーザビリティというのは、一般的なユーザーを対象にしている概念になってきます。この2つはそのターゲットから違いがあるのです。

という解説についても、社会的・業界的に共通の認知に基づかない、著者独自の見解のように思われます。アクセシビリティとユーザビリティは元来、明確に切り分けることのできない、領域的に重複のある概念です。ある利用者にとって極度に「使いにくい」状況というのは、事実上の「使えない」状況としても捉えることができるわけで、ユーザビリティ上の課題ともアクセシビリティ上の課題とも取れます。結局のところ、著者が主張しているような分け方でアクセシビリティとユーザビリティを二分するのはおかしい、というのが自分の主張になります。

アクセシビリティに関しては、そのベースとなる部分については福祉の考え方が横たわっています。対してユーザビリティでは、経営的な考え方が横たわっているのです。したがってユーザビリティに関しては、それを向上させることで利益を上げるという点と併せて語られる場合が多くなります。

まるで、アクセシビリティを確保しても利益には貢献できない、とでも言いたげな論調ですが......確かにアクセシビリティという言葉には、福祉的な側面があります。それは、アクセシビリティの確保が障害者や高齢者への対応を含んでいる以上、必然とも言えます。しかし、それと経営云々は全く別のお話ではないでしょうか? そもそも、Webコンテンツに限らずあらゆる製品やサービスについて、ユーザブルである(=使いやすい)ためには、前提としてアクセシブルである(=使うことができる)ことが必要のはず。どの程度アクセシブルであるべきかは個別の議論になりますが、その論でいえばアクセシビリティもビジネス的に不可欠です。

アクセシビリティを向上させるというのは、障がい者などに使いやすいシステムにするものです。そのため、目が不自由な人に向けて文字の拡大サービスや読み上げサービスを実施します。このような対応に関しては、健常者のユーザーにとっては邪魔になってしまう場合もあります。

著者の論理で言えば、「目が不自由な人に向けて文字の拡大サービスや読み上げサービスを実施」しない限り、アクセシビリティを確保できないということになりますが......Webコンテンツに関して言えば、必ずしもそのような施策は必要ありません。Webブラウザーや支援技術といった存在が、コンテンツと利用者を仲立ちしてくれる(利用者のニーズに合わせて適切に処理してくれる)ことが期待しやすいからです。

アクセシビリティのような特別な対処を、ユーザビリティでは行いません。ユーザビリティでは、そのような特別な機能を導入するよりも、少しウェブサイト上でユーザーが移動する動線にしたがってコンテンツを配置します。

ユーザビリティの確保は、動線の最適化だとかコンテンツの配置に限ったお話ではないと思いますが......。それはそれとして、「文字の拡大サービスや読み上げサービス」を提供するようなことを、アクセシビリティ対応だと著者の方はお考えだからこそ、「アクセシビリティのような特別な対処」という表現が出てくるのだと思いますが、それが誤りであることは既に指摘した通り。みんなの公共サイト運用ガイドライン(2016年版)の「2.1.4. ウェブアクセシビリティ対応に関する誤解」には、次に引用するようなくだりがあります:

ホームページ等において、音声読み上げ、文字拡大、文字色変更等の支援機能を提供する事例がありますが、これだけでは、ウェブアクセシビリティに対応しているとは言えません。

いくらWebブラウザーや支援技術がよきに計らってくれるからといって、コンテンツを適当に作って良いという話にはなりません。けれども逆に言うと、しっかりマークアップしてさえいれば、文字拡大ボタンのような特別な機能を提供せずとも、最低限のアクセシビリティは確保できると言えます。

アクセシビリティとユーザビリティの違いは明確であるといえます。

繰り返しになりますが、この記事の主張するところの、対象によってアクセシビリティとユーザビリティの違いが説明可能との論には、自分は全く賛同できません。便宜上、両者を分けて論ずることはありますが、使いやすさに関する品質という点ではどちらも同じ括りであると思います。敢えて分けるならば、アクセシビリティは想定される範囲で最大多数の利用者及び利用状況における使いやすさであり、ユーザビリティは特定の(例えばビジネス上のターゲットと仮定するところの)利用者及び利用状況における使いやすさ、ではないでしょうか。

ちなみに、記事を掲載したキャリアパークというサイトでは、当該の記事が公開された6月20日より一週間前の6月13日付でユーザビリティとアクセシビリティで障害をカバーする方法という記事が掲載されており、その中ではアクセシビリティはユーザビリティに含まれるとされています。記名記事ではないので、同じ著者が書いたかどうか定かではありませんが、同じサイト内においてこうした矛盾を孕む、読者に誤解を与えかねない記事を出すというのはよろしくないと思います。本来、そちらの記事にも異論を唱えたいところではありますが、だいぶ長くなりましたしこの辺で(謎)。

アクセシビリティおじさんからは、以上です。

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