浅川賞について思うこと
著
浅川賞、という賞をご存知でしょうか。これは公益社団法人日本アドバタイザーズ協会Web広告研究会(以下「Web研」)が企画されているウェブ関係者のウェブ関係者による賞
、「Webグランプリ」におけるアクセシビリティ部門の賞のことです。賞の名前は、日本人女性技術者として初めてIBMフェローに任命された、浅川智恵子氏にちなんでいます。
浅川氏といえば、視覚障害者向けにWebコンテンツを合成音声で読み上げるソフトウェアの先駆的存在、ホームページリーダーの開発者としてよく知られています。Webアクセシビリティに長く携わってこられた方であれば、浅川氏の名前を知らない方はおそらくいないでしょう。少し前にTEDの講演「視覚障害者が世界を自由に探索できるようにする新技術」が話題になりましたが、その講演で初めて浅川氏について知った方も、少なくないかもしれません。
浅川賞は2010年、「Webグランプリ」の前身にあたる「企業Webグランプリ」のアクセシビリティ部門として創設されました。2013年に「企業Webグランプリ」が「Webクリエーション・アウォード」と統合され「Webグランプリ」に名前を変えた後も、継続してアクセシビリティに優れたサイトを表彰してきました。今年、2015年の受賞サイトは12月4日に発表されたのですが、そのプレスリリースには以下のくだりがあります:
浅川賞の選考は、本年度Webグランプリ応募サイト120サイトの内ソーシャルサイトを除く全サイトを対象にツール診断(※)と審査員推薦などによって7サイトの優秀賞を選出、その後浅川智恵子氏を審査委員長とする実際に読み上げソフトを使用する有識者審査員の審査会により選出されました。
(※)総務省が提供するアクセシビリティ診断ソフト miCheckerを基本に開発されたものを使用。
上記の選考方法は、それより前の年における選考方法と大差ないと認識していますが、自分には以前からこの選考に対し腑に落ちない点があったことから、実は今年8月に以下のような質問をWeb研のWebグランプリ事務局に対し投げかけていました:
- miCheckerは現状、普及著しいHTML5に対応していない。その点をどのように解決しようとされているのか?
- 読み上げソフトを使用する有識者の方による審査の基準(何をもってしてアクセシビリティ的に優れていると評価されるか)は公開されないのか?
勤務先がWeb研の会員企業であるため、いち個人としてではなく、いち会員社の立場からWeb研と上記に関しやり取りをさせていただきました。ですので、Web研よりいただいた回答をここで公開するようなことはしませんが(そもそも許諾を得てもいません)、来年度以降に向け前向きな回答をいただけたと認識しています。
なので、あまり蒸し返すようなことを書きたくはないのですが......この種の賞の評価基準に関する詳細が公にされず、半ばそれがブラックボックスとされてしまうことは、結果としてアクセシビリティに関する誤解を招いたり、せっかくの取り組みを後退させてしまう懸念を抱いているのは事実です。
誤解していただきたくないのですが、「Webグランプリ」にアクセシビリティに特化した賞が存在すること自体、非常に素晴らしいことであって、Webアクセシビリティの普及啓発において社会的に極めて重要な取り組みになっていると思います。企業のWeb担当者にとって、これほど分かりやすくアクセシビリティ確保を評価してもらえる場なり機会というのは稀有であり、自分は強くその存続を願っています。
しかし、そうであればこそ、一部に「どうすれば浅川賞を受賞できるのかわからない」といった声が聞かれるのは残念であり、より透明性・客観性ある評価によって表彰がなされて欲しいと思います。WebコンテンツのアクセシビリティにはWCAG 2.0という国際的に認知・利用されているガイドラインがあり、それに従って「一定の」客観的な評価が可能です。Webアクセシビリティの良し悪しを論ずるならば、まずはそのWCAG 2.0を使って評価するのが妥当ではないか?と考えます。
そのうえで、障害当事者による主観的評価を加味するのであれば、それはそれでアリでしょう。その際、特定の障害タイプ、たとえば視覚障害の当事者に偏った評価がなされることのないよう、配慮していただきたいとも思います。アクセシビリティは特定の障害への対応を指す言葉ではないからです。しかしそれが「言うは易く行うは難し」というのも理解しているつもりで、あらゆる障害タイプの当事者の声を集めて評価というのは現実的ではないでしょう。そこはあくまでバランスの問題と割り切ったうえで、評価者の障害種別やスキルレベルなども可能な範囲で開示のうえ、評価基準を明確にしていただければと。
そういうわけで、来年の浅川賞に対し大いなる期待を表明しつつ、Web Accessibility Advent Calendar 2015最終日の記事を締めくくりたいと思います。本年も大勢の皆さんのご参加、誠にありがとうございました。また来年、Web Accessibility Advent Calendarをご一緒に盛り上げられたら嬉しいです。