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Re: アクセシビリティという意味への問い

浅野さんがÉKRITS / エクリに寄稿されたアクセシビリティという意味への問いという記事は、興味深いながらも浅学の自分にはあまりに哲学的で、アンサー記事のようなものを書き起こし始めるには一定の時間を要しました。何度か繰り返し読んだ今現在においてもなお、十分に咀嚼できた自信はないけれども、自分の思考を整理することを目的に、感想を覚え書きしておこうと思います。まず浅野さんは

数年前の自分自身を振り返ってみると、いつのまにか「Webアクセシビリティは二段階に分けられる」という思い込みが生じていたように思います。

とあるように、Webアクセシビリティに「機能的アクセシビリティ」と「心理的アクセシビリティ」の二段階を見出し、かつそれが思い込み、誤解だったという風に書かれています。しかし自分には、両者を同じアクセシビリティという言葉で括るかはさておき、そういう「二段階」を見出すこと自体は、決して間違っているようには聞こえませんでした。というのも、自分は黒須先生が以前お書きになった

に基づく整理が非常に気に入っていて、浅野さんのおっしゃる「機能的アクセシビリティ」はWebの設計品質、「心理的アクセシビリティ」は利用品質のことを指しているように感じられたのです。黒須先生の整理に基づくなら、アクセシビリティはあくまで利用品質ではなく設計品質に属するものであり、かつ自分はその整理に賛同しているわけですけど。

技術の発展に伴ってユーザーがより自由なアクセスを手にしていくことは、技術を用いて何かをデザインする立場から見れば、より大きな不可知性に向き合うことを意味します。どんな人が、いつどこで、どのようにものごとにアクセスするのか、そのあらゆるケースを想定することは、ますます難しくなっています。これまで得た結果から原因を推測して対策を行なうことや、それを経験則として積み上げていくことには、もはや限界があるのです。

振り返ってみれば、Webデザインの歴史は常に上記の「不可知性」、言わば環境変化とどう向き合うかの連続でした(し、今後もきっとそうでしょう)。その一方で、最低限の(と書くと曖昧かつ微妙ですが)アクセシビリティを確保することで、ユーザーやデバイスを含む環境の変化や多様化に対し、Webコンテンツの耐久性を上げることはできます。だからこそ、かつて障害者対応や高齢者対応といった文脈でしか語られることの少なかったWebアクセシビリティの捉えられ方、イメージを変える必要はあったと思います(「Webアクセシビリティ」のリブランディング参照)。

何かにアクセスするわたしたちは、機能的か心理的かという区別なく、その体験を成り立たせるあらゆる条件を一斉に与えられるのです。Webが誕生してから現在まで、それが時間や場所、デバイス、さらにはメディアにも囚われない体験へと変化してきたことを思ったとき、わたしはそれまでの二段階的なアクセシビリティを見直したくなったのです。

上記のくだりはアクセスという行為、あるいはアクセシビリティという品質が説明する範囲をどこまで拡張すべきかという議論に聞こえます。UIとUXをどこまで分けて(あるいは「分けないで」)論ずるか......あるいは、先述の設計品質と利用品質をどこまで一緒くたに論ずるか? のような。そこに絶対的な正解は無かろうと思いますし、基本的には文脈次第、語り手の立場・視点次第ではあると思うのですが。

ただ、アクセシビリティを考える出発点は、わたしたちが自分自身のために、時には他の誰かのためにアクセスの欲望を叶えようとすることであり、それはこれからも変わらない。わたしは、そう思うのです。

これは全くもって同意。加えてWebに限って言うなら、「アクセスの欲望を叶えようとする」というのは「メッセージを伝える」や「コミュニケーションを図る」に言い換えて良いとも思います。そしてそれこそはデザイナーや開発者、Web担当者、肩書きは何であれ、コンテンツ提供側の人々がWebを作ることの理由であり、原動力だと信じていますし、故にWebアクセシビリティ・ファーストというスローガンを掲げ続けよう、僕はそう思うのです(宣伝乙)。

......うーん、やっぱり感想としてうまくまとまってないし、ちゃんと言語化できてない気がするな。でもこうやって、いつも(何)と違う切り口からWebアクセシビリティについて考察してみるのは、日常的に業務の一環として関わっている立場からすると逆に新鮮で、ありがたいものだと思いました。浅野さん、良いきっかけをありがとうございました。

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