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Re: 怒りと愛-UCDに関する世代論的考察(前編)

黒須先生のお書きになった、怒りと愛-UCDに関する世代論的考察(前編)という記事を読みました。その最後の段落にあるくだりは、アクセシビリティという伝統的にROIの検証が難しい分野の普及啓発に取り組んできた自分にとって、やや既視感を覚えました。

当時は、あちこちのメーカーから特にISO 13407絡みの講演依頼もあったが、僕のスタンス、特に初期のそれは「ユーザはこうやって苦労している、だからそれを改善しなければいけない」という、いわばお説教的アプローチだった。しかしどうも反応が芳しくないので、その後「ユーザに苦労させないように製品づくりをすれば、売り上げにも関係してきますよ」的な妥協的なアプローチに変化させた。結局、売り上げに関係するというそのロジックは企業に受け入れられるようになり、ユーザビリティの普及にもつながった。

自分も過去、Webコンテンツとはそもそも障害者や高齢者にも使えるよう実装されるべきであり、そこれこそは「正しい」「あるべき」Webデザインである、みたいな語り口でアクセシビリティの必要性を喧伝していた時期がありました。しかしそのロジックばかりでは、公的機関や公共性の高いサービスを提供する企業はともかく、それら以外の事業者等にはまず受け入れられないのですよね......その理由として最たるものは、障害者・高齢者はターゲットユーザーではない、というもの。

もちろん、そのロジックに反論することは可能だし(障害者という括りには「一時的な」障害者も含まれるし、誰もが加齢から逃れられない云々)、実際反論もしてきたけれども、組織がそれまで取り組んでこなかったことを新たに始める段においては、一定の経済合理性とともに訴求することが必要不可欠なわけで、その辺りが黒須先生の書かれた売り上げに関係するというそのロジックとかぶってくるのかなぁと。いかに来年から障害者差別解消法が施行されるとはいえ、コンプライアンスよりか儲かる・儲からないといったロジックのほうが響きやすいのは、営利企業であればごく自然なここと映りますしね。

とはいえ、先述の通りWebアクセシビリティのROIを語るというのはなかなか難しい。その領域に限定したところで、どれだけ頑張れば幾ら儲かるかなんて、なかなか語れるお話ではない。そこにしばらく悶々とした結果として、アクセシビリティという言葉が障害者・高齢者対応という文脈にフォーカスされ過ぎている傾向を中和すべく、マルチデバイス対応の基礎・土台やら機械可読性の提供する価値といった側面から「Webアクセシビリティ」のリブランディングに取り組み始め、現在に至ります。明日のThe NEXT WEB CONTENTでも、やっぱりそういう話をするつもり。

上記の取り組みはまだまだ道半ばですし、中根さんがおっしゃるようにアクセシビリティー関連のセッションとかに障害当事者とかが出てくる頻度が最近激減してる気がするのは、やはり良くないと自分も感じつつ、より多様な切り口・側面から(売上げ云々も含め)、そのときどきでバランスよくアクセシビリティの必要性を訴求していくことが必要だと思うし、そういう努力をしていきたいなぁと。

取り止めがなくなってきましたのでこの辺で止めますが、後編を楽しみにしております>黒須先生

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